狂気(サボ)




昼食を済ませたあとは仲間たちと少し談笑をし、そろそろ仕事に戻ろうと食堂を後にする。自室に戻ろうと書類を持ち廊下を歩いていた。すると先の角から革命軍のNo.2、若くして参謀総長という肩書きのサボが歩いてきた。ブロンドのウェーブがかかった髪、容姿は整い、力も地位も人望もある男だ。だがその肩書きを振りかざす事はなく、部下とは親しみを持って接する。完璧という言葉もあながち間違いではなく、男からも女からも敬われている。だがこれは彼の表面でしかない。心の中ではどす黒い何かが渦巻いていることを私は知っていた。そんな男は、自分と鉢合わせようとしたのか自室に向かおうとしたのかは分からないがこちらへ向かって歩いてくる。その目は自分をとらえていたが私は目線も合わせずすれ違おうとしていた。が、すれ違いざまに手首を捕まれる。支えを失った書類はバサバサと音を立てて落ちていった。あ、落ちたと呑気にも書類を見つめていると掴んでいた腕を引っ張られ背中と後頭部に衝撃が走る。壁に叩きつけられたがその出来事にmは微動だにしなかった。手首を掴みmの頭の横に手が置かれ、壁とサボに挟まれる。早く解放されたくて、力で適うはずもないが腕を振りほどこうとする。しかしそれは当然びくともしない。ギリギリと掴まれている手首が痛い。

「なあ、お前、俺から逃げられるとでも思ってるのか?」

サボは口端をかすかにあげ、薄ら笑いながら言った。目は笑っていない。早く終わらないかなと思いながら目の前のスカーフをぼーっと見つめていた。サボの言葉もそこそこに受け流し、見当違いなことを考えていると、おい、と低い声で呼ばれ頬を手で挟まれ無理やり顔をあげさせられた。サボの顔をちらりと見る。そしてまたすぐ目線をスカーフに戻した。この男の握力でずっと頬を挟まれているので頬がじんじんと痛みを帯びてくる。

「…離してよ。」

サボの目を見上げそう言うと頬を掴んでいた手を乱雑に離され私の髪が乱れる。サボは身を翻し掴んでいたmの腕を引っ張りすぐ近くの自室に向かって歩き出した。

「ちょっと、やだ、行きたくない。」

少し声を荒らげ抵抗をするとサボが足を止めてこちらを振り向いた。目が据わっていて、mは一瞬びくっと体を震わせた。サボの手が唯に伸ばされ、いきなり親指を口内につっこまれ顎を掴まれる。突然のことにmは目を見開くも、ここは廊下だぞ、m。とニッコリするとmの口から手を引き抜き、mの首の後ろを捕みまた歩みを進めようとする。この男の部屋に入ったら終わりだ、と思い、離してとまた声を荒げた。するとパンっと乾いた音が廊下に響く。すぐに左頬が熱を持ちじんじんと痛む。もう抵抗しても無駄だと、大人しくなった私を見てサボは何事もなかったように私の腕を掴み再度歩みを進めた。私は左頬に手をあて腕を引かれるしかなかった。サボの部屋のドアの前につき、ガチャ、と扉をあけるとサボに背中を押されmは部屋に押し込められる。サボも部屋に入り後ろ手でドアをパタンと閉めるとコートとシルクハットをソファーに投げ捨てた。その様子を他人事のように目で追っているといきなり胸ぐらを捕まれ乱雑にベッドに押し倒された。サボが上に覆いかぶさり、顔を近づけてくる。鼻と鼻がぶつかりそうな距離で、もう抵抗するんじゃねェぞ、と言われ唇と唇を重ねられる。必死に胸板を押し返すがびくともするはずがなく、ついに呼吸が苦しくなり酸素を求めて口をあけるとするりとサボの舌が入ってきた。気持ちが悪く、思わず侵入してきた舌を思いきり噛んだ。噛まれた本人は、ぴく、とわずかに反応し、無言で上半身を起こした。サボは馬乗りの状態でmを見つめた。その口端からは血が流れていた。サボは口端の血をゆっくりと手の甲で拭く。そして甲についた血を横目で見、視線をまた私に戻す。サボは、ふ、と笑った。

「お前…わかってねェなあ。」

今私は感情に任せて恐ろしいことをしたんじゃないかと恐怖が押し寄せてくる。そんなことを考えているのもつかの間、私の首にサボの両手がかけられた。お仕置きだ、m。かすかにそう聞こえたが、私はすぐに意識を手放した。

はっ、として上半身を起こすと当然サボの部屋だった。夢ではなかったんだとまた恐怖が襲う。それほど時間は経っていないらしい。絞められた首が痛い。頭がクラクラする。

「起きたか、m。」

ふいに声が聞こえ、恐る恐る声のするほうを見ると優雅に紅茶を飲む部屋の主がいた。つい今しがた人の首を絞めた奴の行動とは思えないほど悠長だ。狂っている。サボはカップを口につけそれをゆっくりとソーサーに置くと、こちらへ歩いてきた。mは無意識に身構える。

「なあ、m。俺だって本当はこんなことしたくねェんだよ。」

そう言い私がいるベッドにドサッと腰をかけ俯いた。良かった、もう終わりなのかなと思い胸を撫で下ろした。もうあんな痛い思いをするのはごめんだ。一刻も早くこんな狂ってる男の部屋から逃げ出したい。

「なんでわかってくれねェんだよ…。」

そう呟いた瞬間、肩を思いきり押された私はまた押し倒された。サボは私に覆いかぶさり、片手で私の両手首を抑える。先ほどのことを思い出し、また始まるのかと思うと恐怖で自然と涙が溢れてくる。

「もうこんなことやめようよ…。」

「お前が悪いんだ。」

ピシャリと否定をされ、私はさっきの恐怖で抵抗する気も起きずただただ涙しか出てこない。頭の上で両手が拘束されたまま、サボは片手で器用に私のシャツのボタンを外していく。下着も外され、気持ち悪い、と思いながら私はただひたすらに耐えるしかなかった。

もう抵抗しねェよな?とやっと両手の拘束を解いてもらえた。まるで抵抗したらどうなるか分かっているだろう?とでも言われているようだった。私は頷きもせずただ天井を眺めた。するとサボは自分のベルトに手をかけカチャカチャとベルトを外した。腕を引っ張られ上半身を無理やり起こされた。サボは膝立ちになり、舐めろ、と私の後頭部を掴んだ。もはや私に抵抗する気力はなかった。気持ち悪さで何度も吐きそうになりながらも舐めた。しばらくするといきなり後頭部をぐい、と押された。喉の奥まで入り、嗚咽が漏れた。それを抜くとmはベッドの下に嘔吐した。生理現象で涙が勝手にでてくる。ハァハァと肩で息をしているmをサボは抱き寄せ口付けた。舌をいれ口内を舐めとるようにねっとりとしたキス。mの味がする、とサボが笑う。こいつはいかれてる。全ての行動がいかれてると思った。吐いてからゆすいでいない口が気持ち悪い。mがぐったりしていると、まだこれからだろ、とサボはまたmを乱暴にベッドに横にしてmのパンツに手をかけた。やだ、とまだ息の整わない唯が言うもまるで聞こえていないかのように無視をされ、あっけなく脱がされてそれをベッドの下に投げた。もうこんなことは嫌だ、ついにmは嗚咽を漏らし泣いた。サボはそんなmを見向きもせず挿入をした。mは両腕で顔を隠し行為中はずっと泣いていた。死ね、死ね、と心の中で繰り返す。早く終われ。もちろん避妊などされずその行為は何度も何度も繰り返された。



ふと目を覚ました。体がだるい。なんとか上半身を起こすと、体中に情緒の痕があり、下着を身につけていた。おそらくサボが着せたのだろう。隣を見ると同じくパンツしか履いていない、こちらに背中を向けて寝ているサボがいた。ひどく喉が乾いたので、水を飲もうとベッドから立ち上がると後ろから手首を捕まれ体がびくついた。正直顔も見たくない。振り返らずに手を振りほどこうとしたがさらに力を込められる。行かないでくれ、と思いつめたような掠れた声が聞こえる。サボがゆっくりと上半身を起こしベッドに座った。

「ごめんな、m。あんなことしたくねェんだ。でも勝手に…、俺、お前が他の男と話してるところを見てるだけで自制心が効かなくなるんだ。」

泣きそうな声で話すサボにmは目線を伏せた。サボはmのことを愛している。愛し過ぎてるが故に独占欲に火がつき狂ったように彼女を抱く。

「許してくれ、m。お前を誰にも渡したくねェんだ。俺だけを見てほしくてあんなことをしちまうんだ。俺だけのものでいてほしいだけなんだ。」

その切ない声にmは胸が苦しくなり、無意識にサボの頭を抱き寄せた。

「もう、いいよ…。」


何度も繰り返されるこの行為。唯は何度も傷つけられ、サボは全てが終わると謝る。結局最後は唯も許してしまう。いつかこの男に殺されるんだろうなと思いながら、この男が今にも壊れてしまいそうで、mは抱き寄せた手を離すことができなかった。










2017/7/6
典型的なDV男とそれにはまる典型的な女


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