あなたはまだ知らない(エース)




私の父の名はゴール・D・ロジャーで母の名はポートガス・D・ルージュ。ゴール・D・ロジャー、もうひとつの名をゴールド・ロジャー。ひとつなぎの秘宝を手に入れた唯一の海賊王だ。そして私の兄はポートガス・D・エース。私より2つほど歳が離れている。父は海軍に処刑され、母は私を産み落としたあと死んだ。私とエースは、私が産まれてすぐダダンのもとへ預けられた。私達兄妹はいつも2人だった。唯一無二の肉親であるお互いがお互いを守り、周りには心を開かなかった。子供2人で生きていくのに私達は必死だった。周りの人間は、あのゴールド・ロジャーの子供なんていたら死ねばいいと言う。それを耳にするとエースは必ず喧嘩をした。エースは父親が嫌いだと言う。この体にあいつの血が流れているのが嫌だと言った。だが私は、父が誇りだった。その血が自分にも流れていると思うと心強かった。ある日サボが仲間に加わり、初めて心を許す仲間ができた。私達は3人でよくグレイターミナルで過ごした。朝起きて猛獣のいる森を抜け、グレイターミナルへ向かう。グレイターミナルでは大人に負けず金になるものを探した。街に出ては食い逃げと強盗を繰り返した。夜になればサボと別れ、エースと2人で家に帰った。エースは無鉄砲なところがあった。私は父が好きなのでガープからよく父の話を聞いていた。あいつもどうしようもない無鉄砲な奴じゃった、とガープは言っていた。エースのそういうところは父に似たんだな、と思ったが、エースが怒るので言わなかった。私は心配でならなかった。その無鉄砲さが仇となりいつか死んでしまったらどうしようと不安がよぎるときもあった。もちろんそんなことを言ったらエースに叱られるので、口には出さない。だが今までに1度だけ、エースを失うのが怖いと呟いたことがあった。もちろん大声で叱られた。私が叱られてわんわん泣いていると、うるせェ!俺は泣き虫は嫌いなんだ!とさらに怒鳴られる。だが最後には、俺は死なねェよ、と頭を撫でられた。

ある日、ガープに連れられてルフィといつ少年が家にきた。私よりもひとつ下で泣き虫だ。私はその頃にはエースに叱られても泣くことはなかった。泣き虫は嫌いだと言われるので、涙をこらえられるようになったからだ。だがこのルフィというやつは、わんわん泣いた。エースはこの子のこと嫌いそうだな、と思った。そしてもちろんエースはルフィのことが好きではなかった。だがある日、街の不良と揉めた一件でエースはルフィを認めた。エースがそう言うならと、私もルフィを認めることにした。私は別にルフィのことが嫌いではなかったので嬉しかった。ルフィは泣き虫だけど素直で真っ直ぐだった。エースはルフィを弟にしてから少し変わった。エースを知らない人からしたら、何も変わっちゃいないと思うかもしれないが、私から見るとエースはだいぶ穏やかになった。妹の私に向けるような目を、ルフィにも向けるようになった。私はルフィが好きだったので、それが嬉しかった。出来の悪い弟を残してなんか死ねるかとエースは言った。エースはどこか死に急ぐような気がしていたのでその言葉に私は安心した。

ある日、仲間であるサボが死んだ。私はルフィが来てから初めて涙をこぼした。眠れぬ夜を数え、3人で乗り越えねばと涙を飲んだ日々も過ぎ、いつしかエースが17歳、私が15歳になった。エースは腕に自分の名と兄弟の意志を刻み、私達はルフィを置いて一足先に2人で海にでた。力こそ男には適わないが、戦闘技術もあり知恵もある私がエースについていくと言ったときは2人とも驚いていた。私は船長になるために1人で海に出るだろうと思われていたらしい。確かに海は好きだし海賊にもなりたい。もちろんひとつなぎの秘宝も探したい。だが私は1人で海にでることなど一度も考えたことがなかった。私は、エースについて行く気しかなかった。2人でいたいというよりかは、1人にさせたくないという気持ちのほうが大きかった。目を離せば無茶をしていなくなってしまいそうな兄の、生きていくためのサポートをしたいと思った。この男に、守りたいなんてお恐れたことは言えないが、せめて背中を守りたかった。私達は悪魔の実を食べ、間もなくスペード海賊団としての名を挙げルーキーと呼ばれた。並の海賊の男よりか力も強かったが、やはり女では男との力の差に問題があった。だが悪魔の実を食べたことによって、私の力の弱さの問題もなくなり、私はスペード海賊団の副船長を任されていた。兄妹であり、船出から共にしているので副船長になるのは当然なのかもしれないが、それでも私は自分の力が認められたようで嬉しかった。

グランドラインに入ったある日、白ひげ海賊団と戦い私達は惨敗した。私は兄を海賊王にしたかったのに、と何度も何度も白ひげ達を殺そうとしては、白ひげや時にはマルコに返り討ちにされる日々が続いた。それはエースも同じだった。だがこの船に乗り続けてしばらくしてから、私はこの船も悪くはないんじゃないかと思い始めた。この船の船員は皆、兄弟に対する無償の愛で溢れていた。何より、オヤジである白ひげの無償の愛は、エースに必要なんじゃないかと思った。エースはまだ納得していないようだが、私は徐々に船員たちと打ち解けていった。エースはまだ気づいていないと思うが、兄であるエースが求めていることは地位でも財宝でもない。自分の生きる意味だ。私は幼い頃から兄のそれに気づいていた。だがそれを自分の口から告げるのは悪趣味だと思った。けど私がエースの生きる意味を証明しようと思った。兄が自分の探していたものに気づき、それをまた探すとき、私はこの不器用で真っ直ぐな兄の力になりたいと思った。兄が無鉄砲なら私が背中を守ればいいと思った。毎日死にものぐるいで鍛錬をしたのも兄の力になりたいため。本当は悪魔の実を食べるのが怖かった。大好きな海をもう二度と泳げなくなるのなんて嫌だった。でも女である私が化け物じみた海賊に勝つためには食べるしかなかった。辛い鍛錬にも堪え不安な気持ちを押し殺した。それはすべて兄のためだった。兄はやっと私に背中を預けてくれるようになった。兄には前だけを向いていてほしかった。兄に守られ背中を見つめるだけの私はもういない。兄がいるだけで安心することができた。今度は私が恩返しをする番だ。そしてエースは気づかなければならない、自分が何を探しているのかを。

私達は白ひげ海賊団の一員になった。エースは2番隊隊長の座に就任した。その頃にはエースも私も5億超えの賞金首になっていたが、私のわがままで私は2番隊の平隊員になった。そして気づけば随分とこの船にいた。エースは未だに何かを探し続けている。私はゆっくりでいいと思った。この船にいれば、いつか絶対にわかるはずだから。今日も私達はお互いに背中を預け戦う。父譲りの無鉄砲さは相変わらずだが、その背中を守れるほどの力を私は持っている。エースの好きなように、思うままに動けばいいと思う。あなたの誇りが刻まれている背中は私が絶対に守るから、あなたは前だけ向いていればいい。








2017/7/6


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