傷跡の歴史(エース)




「これは?」
「俺がガキの頃に熊と戦ったとき」
「これは?」
「スペード海賊団のときだな」

モビー・ディックの甲板で呑んでる連中もまばらになってきた頃、そろそろ寝るかと2人で布団に入る。いつもみたくどちらかが寝るまでぽつりぽつりと話をしていたときのことだった。mはふと向かい合ったエースの体の傷跡が目に入った。この傷どうしたの?とmが指さす。エースの閉じていた瞼が重々しく開かれ、あァこれはな……、と答えるとまた目をつぶる。じゃあこれは?mはまたほかの傷を指さす。次はなんだとエースが気だるそうに瞼を持ち上げ、視線をおろす。あーこれはあのときだな、あいつと戦ったときの。と、エースは誰もが知っている懸賞金の高い海賊の名を出した。そのときの戦いの様子をエースがぽつりぽつりと話し始める。mは突然でてきたかの有名な海賊の名を聞き、いっきに眠気は冷め興味津々でエースの目を見る。その様子にまんざらでもないエースは、続き聞きてェか?とニヤリと笑う。mは目をきらきら輝かせながら頷くと、エースはその戦いについて語り始めた。エースの今までの戦いの話は、海賊の一端のmが興奮するのも当然だった。伊達に5億の男ではなく、その体の傷跡には様々な歴史があった。子供の頃に熊と戦ったときの傷から名高い海賊との戦いの傷まで、彼の体には歴史が刻まれていた。先程までベッドでうつらうつらしていた2人はどこへやら、いつのまにか2人はベッドの上に座って夢中で話していた。エースは以前の戦いを思い出しながら身振り手振りでmに話す。mは身を乗り出して、うんうんと大袈裟に頷きながらエースの話を聞いている。俺たちは丸一日戦い続け、どちらかがいつ倒れてもおかしくない状況だった。もう残す体力もごくわずかでまさに一触即発、そのとき俺は一体どうしたと思う?エースの意気揚々とした語りにmは目を輝かせ、ごくりと固唾を飲む。目をつぶるとまさにエースの戦いがそこで繰り広げられているかのようでますます興奮した。そしてようやくエースは話し終える。もちろんエースの勝利で幕を閉じる。夜が深くなっていることなど気にもとめず、興奮も冷めやらぬままmは間髪入れずにじゃあこれは?とまた新たな傷を指さす。悪い気はしないエースもまたその傷について語りだす。mはまた一生懸命頷きながら話を聞く。もちろん彼の戦いの話が聞けるのも海賊として嬉しいが、mは何よりエースの過去に触れられている気がして嬉しかった。エースの語り口やmの笑い声は日が登るまで廊下に響き渡っていた。

マルコは仕事の指示を出すために甲板まで来たが、2人の姿が無いことに気付く。そういえば朝食の時間もいなかった。どうせ寝坊だろうよい、と腹を立たせながら2人がいる部屋へズカズカと向かう。扉の前に着き勢いよく扉をあけると、そこには床で雑魚寝をしている2人がいた。おそらく2人にかかっていただろうブランケットは端でぐしゃぐしゃに丸まっている。エースの腹の上にはmの足が乗っかっていて、案の定2人はスヤスヤと寝息をたてていた。マルコはため息をつき、丸めてあったブランケットを2人に乱雑にかけると起こすでもなく部屋をあとにした。

「あんな気持ちよさそうに寝られたら起こすもんも起こせねェよい。」

マルコは自分の甘さに頭をかき、甲板に戻っていった。












2017/7/6

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