「晋助、髪ちょっとのびたね」

唐突だが、我等が鬼兵隊の頭領、高杉晋助の散髪を任されているのは意外なことにも彼が寵愛する少女である。



夕方、晋助と共に船へ帰還すれば、つい今朝のころの見送りでも抱き合っていたというのに、ふたりは会いたくてたまらなかったと言わんばかりにぎゅうぎゅうと熱い抱擁に、おかえりなさいとただいまのあいさつを交わした。
しばらくして晋助に抱きしめられたまま、かおだけをこちらに向けたへらりと笑うしあわせそうな彼女に、万斉さんもおかえりなさい、という遅めのそれを貰う。いつまで見てるんだという晋助の無言の視線も。
とりあえずは自分の存在も認識されていたことに安堵した。

腕を組んで仲睦まじく船のなかを歩く我等の頭と少女のすがたを、ほかの隊士たちは軽く会釈しながら見送る。そんな周りに目もくれず、互いのことしか見ていないふたりはただ自分たちの会話に花を咲かせていた。忙しなく働く隊士にも、彼等から数歩距離を置いて歩く拙者にもその会話は耳に入る。

「後ろ髪と横のところがのびたなあって」
「おまえの腕が落ちてねェのならまた頼まァ」
「おちてないよ!やったぁ、ひさしぶりにわたしのさんぱつやさん営業だあ」
「他の客を贔屓になんざしてねーだろうな」
「わたしのお店は晋助だけの専用だもん、えへー」

この娘を目の前にすれば、晋助もこのような調子である。散髪屋さんごっこに乗っかる男になるのだ。
彼女が回した腕を振り払うことなどもちろんせず、更にひょこひょことちいさな彼女の歩幅に合わせて歩く頭のすがた。先ほどの会話や彼等のつくる空気など、すべてをまとめてもう砂を吐きそうな気分になった。はやめに自室へ戻ろう。




「……晋助」
「あ?」
「いや、なにも…」

翌日、彼専用のさんぱつやさんにて散髪を済ませた晋助はどことなくすっきりした表情で艦内を歩いていた。
ようく見れば、一ヶ所だけほんのすこし毛先がぱっつんになった横の髪を、くすぐったそうに、だが愛おしそうにゆびでふれる晋助のすがたは、また彼だけのさんぱつやさんが営業されるまで度々目撃されることになった。

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