ここはカムラの里。今日も穏やかな風に包まれている。
里の中のとある家。……今年からハンターとして活躍しているヨサクとその妹ナマエの住む家だ。ここで、今日もにぎやかな声が響いていた。一言でいえば兄妹喧嘩だ。ヨサクのオトモであるガルクのハヤテ、アイルーのヒスイは、最初こそそのぎゃいぎゃい声に驚いたり、仲裁に入ろうなどとしたが、こう何年も恒例化しては安心して寝転がりながら見守れるほどまでに慣れてしまった。
喧嘩の原因はいつでも……
「私はウツシ教官のお嫁さんになるの!」
「兄さんは反対です許しません!」
……これである。
「ハンターになるのは諦めたのに! お嫁さんになるのまで諦めなきゃならないの?」
「ハンターになるのは危ないから当然反対だ。それでも里守として里を守ってるだけで偉いんだ」
「里守のお仕事をなまけたりしないから! ウツシ教官と結婚するの!」
「それはそれで別の大変さがあるから。なんでよりにもよって教官なんだい妹よ」
うっと言葉につまるナマエ。そんなナマエの脳裏を、幼き日からの思い出が駆け巡る。
ハンターになりたい、とウツシに弟子入りした兄。里の皆がいてくれたとはいえ、両親のいないナマエにとってヨサクは唯一の肉親であり――小さな子どものナマエはわがままと寂しさを堪えられなかった――、その肉親を毎日のように連れてどこかへ行くウツシのことを、ナマエは当初嫌っていた。
日々が過ぎるにつれて、ナマエも当然、里の事情を知る。兄と同じハンターになることは当人に大反対され諦めたが、里守として訓練をするようになった。そのとき、ようやくまともにウツシと相対する。
「ナマエちゃん。いつもキミのお兄さんを連れて行ってさみしい思いをさせてすまない!」
「い、いえ。それは兄の望んだことなので……」
「それでもキミが昔からさみしがっていたのは知っているんだ、一度謝らなくちゃいけないと思っていた」
ウツシの真っすぐな瞳と視線が合って、ナマエは戸惑った。
彼の真摯さと精悍な顔立ちに、今まで経験したことのない感覚が全身に走る。
「今は里守として鍛えていると聞いているよ。ともに里の平和のため、励もう!」
それが、ナマエがウツシに対して初めての好意を抱いた瞬間だった。
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