「ねえ一斗くん、4月1日は“えいぷりるふーる”っていう日らしいんだ」
「えいぷる……、なんでぇ、そりゃあ?」
お茶屋の長椅子で並んで座りながらくつろぎつつ、話を振ってみる。一斗くんは知らなかったようで面白い顔で首をひねって私を見た。
私のお皿にある三色団子を一本、一斗くんのお皿に移して、微笑みながら返す。
「えいぷりるふーる、はね、午前中に嘘をついて、午後になったら嘘をばらす催しらしいよ」
「そんなことして何が楽しいんだ?」
「うーん、きっと上手な人は面白い冗談とかを言って、後で“嘘でした”って誤解を解くとか?」
「ふぅん……」
団子をすべて平らげて、串をひとつくわえたまま、一斗くんは空を仰いだ。私も同じように空を仰いでみる。鎖国令の解かれた稲妻の空はとても綺麗だ。
串を皿に置いた一斗くんは、こちらを顧みた。
「そのナントカふーる、ナマエはどう思う?」
「え? そうだなぁ……。誰かを喜ばせる嘘が思いつかないから、私には不向きかなって」
そう頬を掻くと、一斗くんの手が頭に触れる。ぽんぽんと子どもをあやすそれに似た音頭でなんだかくすぐったくなった。
「そうだな、ナマエに嘘は似合わねえ」
「一斗くん……」
「そして、俺様にもだ!」
すっくと立ちあがった一斗くんは、どんと胸を叩いて張り、豪快に声を上げる。
「荒瀧・真摯一直線・一斗は、決して嘘なんてつかねぇ。いつでも本気の言葉でぶつかるぜ!」
一斗くんの声はよく通る。晴れ渡った空にまで高く広く響いて、私はその心地よさにいつも頬を緩めるのだ。忍ちゃんは「親分にはもっと周りの目とか規律とかに気を配ってほしいものだ」なんて言うけれど……それも一理あるのだけれど……私は、こういう猪突猛進な一斗くんの力強さに惹かれてしまう。昔から私を引っ張ってくれた、一斗くんの頼もしい姿に。
お勘定を済ませて二人で歩き出す。
「一斗くん、いつもその真っすぐさに救われてます」
「俺様も、お前のそういう素直なとこに励まされてるからな! おあいこだ!」
こんな私でも彼の一助になっているなら、生きていてよかったと心から思った。
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