ジュディスはナマエを見つめていた。同じようにナマエもジュディスを見つめている。二人は草原に立っていた。二人きり、二人だけで。
ジュディスがそっと目を伏せると、長い睫毛がうっすらと影を落とした。その様をナマエは美しいと思った。実際にジュディスは普段から美しく、凛々しくあった。それが今日は特別そう感じられる。
「ふたりきりで散歩しましょ」
……そんなジュディスの願いを叶えるために、ナマエはジュディスの手を引き、この草原までやって来た。大切な友だちのお願いごととあっては、聞かないわけにはいかなかった。必要とあらば狼に転じてその背に彼女を乗せようかとも思ったが、ジュディスは「そうしなくていい」と言ったので、人の姿のまま、彼女と歩いた。
風が吹き抜ける。心地いい風だ。ナマエはそっと瞳を閉じる。風を肌で、身体で感じる。世界を巡ってきた風。誰にでも平等にもたらされるもの。
「ナマエ」
呼ばれてナマエは目を開けた。ジュディスと目が合った。深い紫水晶の瞳が、太陽を受けてきらきらと輝いている。ひときわ強く今日は輝いているようだとナマエは思った。気が付くとジュディスはナマエの両手を取っていて、きゅっと握り締められる。まるで何かを懇願するような、そんな行為に思えた。
「ナマエ、この旅が終わっても私たちは一緒よね」
「……うん」
一瞬だけ時が止まる。ナマエの答えがすぐに返って来たものではないことに、ジュディスはさみしそうに俯いた。「やっぱり」と彼女が零す。
「この旅が終わったら、ナマエは何処かへ行ってしまうんじゃないかって思っていたの。私」
「どうして」
「だってナマエ、私たちの旅が終わっても、あなたの旅はまだ終わらないもの」
さみしげにジュディスは微笑んだ。
「あなたには捜すべきものがある。行くべき場所がある。だからきっと、そうだと思って」
「そっか、そうだね」
「止めたいところだけれど、友だちとしては応援しなくちゃね」
ナマエの瞳をまっすぐ見つめてジュディスは言った。
「あなたの輝きを失わせたくないもの」
ナマエは、ああ、と息を吐いた。神様は意地悪だとばかり思っていたけれど、そうでもないようだ。こんな思いやりある友人との出会いをくれたのだから。ナマエは微笑んで返す。
「ジュディスもずっと、その輝きを失わないでいてね」と。
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