hpmy 帝統

 今日は7月7日。七夕だ。幼い頃、織姫と彦星の再会と、自身の願いの成就を信じて短冊や飾りを用意したことを思い出す。ナマエは笑った。願い事はともかく、織姫と彦星の再会はまだ信じられる。なにせ空の遠くの話だ、誰にも確かめようがない。ロマンがあるというものだ。

「おおい、ナマエ〜!」

 乱数の事務所に向かう途中、後ろから声を掛けられる。聞き覚えのあるそれにナマエは振り返った。……やっぱり帝統だ。彼が近づいてくると、ナマエは口を開く。

「帝統。こんばんは。お誕生日おめでとう」
「えっ?」
「良かったらお姉さんが願い事をひとつ叶えてあげましょう」

 ナマエはイタズラっぽく笑うと、帝統の顔を見つめた。きょとん顔から、みるみるうちに笑顔へと変わった彼の表情に、これから何を言われても叶えてあげようとナマエは思う。帝統の笑顔には、強くも綺麗な、不思議な魅力と、活力を沸かせるものがあった。
 帝統は両手を合わせると、ナマエに向かって頭を下げた。

「金欠なんでご飯奢ってください!」

 今度はナマエがきょとんとする番だった。

「それだけでいいの? いつも通り過ぎない?」
「いーんだよ、本当に叶えたいことは自分で叶えなくちゃだからな。……金借りるわけにはいかねえし」
「別に貸すよ? どのぐらい必要? 10万くらい?」
「マジかよ! って、だからダメだって言ってんだろ。ナマエから借りたなんて乱数と幻太郎に知られたら大目玉だ」
「内緒にしとくよ?」
「そーれーでーもーだっ!」

 ぶんぶんとかぶりを振って帝統は答える。その真っ直ぐな眼差しに嘘偽りはなく、これ以上食い下がっては失礼だと思ってナマエは口を閉ざした。

「これから乱数んトコ行くんだろ? ちょっと良い出前か何かとってくれよ」

 欲があるのかないのか分からないものだ。星空を見上げながら、ナマエは思う。帝統の言った「本当に叶えたいこと」とは一体何だろう? 若さゆえの尊い発言にも感じられた。自分には「本当に叶えたいこと」なんてあっただろうか。彼のように強くて真っ直ぐな瞳で見据えられるような、そんな願い事が。
 ナマエは帝統に向き直って、ウインクする。

「分かった。今日は存分に好きなもの食べなさい」
「よっしゃあ!」

 ガッツポーズを決めたのち、ナマエの手を引いて帝統はずんずん歩き出す。まるで弟でもできたような思いがして、ナマエはくすりと微笑んだ。



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