かしゃん、とそこそこ軽い音がしたのちに「申し訳ありません、アルベド様……」本当に申し訳なさそうに体を縮こまらせてナマエが差し出してきた割れた瓶を見て、ボクは、ああ、と呟く。
「割れたガラスを持つなんて危ないから、早く捨てるように」
「このぐらい何ともありません! ですが、中身がまだ僅かに残っていて、それだけでも何とかなるかと思い……」
「さすがにこの量じゃどうにもならないよ。捨てていい」
「はい……」
大人しくがらくた箱に破片を捨てたナマエが、とぼとぼと戻ってくる。ボクの前に正座して「何なりとお申し付けください。お仕置きを受けます」と騎士らしく、畏まって見上げてきた。試薬ひとつ無駄にしたところでこんな大げさな、と思うけれど、それだけ彼女は真摯にボクの元で作業に務めてくれているのだろう。
生真面目すぎるけれど。
「それじゃ、ひとつお願いしようかな」
「ぜひ」
「君の血を分けてほしい」
きょとんとするナマエに、ボクは少し意地悪くなるように笑ってみせた。
「さっきの瓶に入っていたのは、処女の血液なんだ」
ナマエはぽかんとした。字の通りぽかんと口を開けて、ボクを見上げている。しばらくボクと目を合わせたのち……ぼっと火が付いたように顔を真っ赤に染めた。「しょ、しょ、」どもりながらも、目を逸らそうとはしない。それどころか、意を決したように眉を上げ、
「わ、分かりました。私の血でよろしければ、必要なだけ持ってってください!」
……両腕を突き出してきた。
ボクは、思わず笑ってしまった。それと同時に、真摯なナマエをこんな低俗なからかい方で困らせてしまったことを後悔した。
「冗談だよ。そんな悪趣味なもの集めたりしない。ごめんよナマエ」
「え、あ、でしたら、何だったのでしょうか、あれは! このナマエに贖えるものでありましょうか……!」
「まだ予備があるから平気さ」
ナマエは気にしていないようだけれど、ボクは本当にすまないと思っている。あんな言葉でナマエを弄ぶ形になったことを。そして疑問に思った。どうしてこんな思考を、言葉を、ナマエに向けてみたいと思ったのかを。
彼女が処女であることに、安心したのかを。
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