KH リク

 ナマエは強情だった。

「カイリにキーブレード使いの修行をさせるのは絶対に反対」

 そして、過保護だった。
 ナマエの妹であるカイリは、突然キーブレードを手渡されても戦えるぐらいには心得がある。それは俺と一緒にいたナマエも目の前で見ていたはずなのに。
 俺がカイリに、キーブレード使いになるための修行を提案しに行ったら、家を飛び出してしまい、二人で夜の海を眺める羽目になっていた。座ってからナマエは膝に顔をうずめてこちらを見ようともしない。
 イェン・シッド様から頼まれたからには何とかカイリを連れて行かなくてはならない。それには、姉であるナマエの賛成を得らなくてはならなかった。何故かと言うと、ナマエを無視してカイリを連れて行ったら、俺は一生ナマエに口をきいてもらえなくなるからだ。元から孤立感を覚えているナマエの意見を蔑ろにしたら、せっかく隣に立つことを選んでくれたナマエの信頼を裏切ることになる。

「カイリはあんなに大変な目にあったんだから、ゆっくりしてほしいの。どうしてもキーブレード使いが必要なら、私が代わりになるから」
「でも、そんなのみんな一緒だろ? それに……俺はナマエにこそゆっくりしてほしい。だからってカイリを連れて行くわけじゃないし、ナマエの協力が必要な時もあるし……」
「リクもソラもみんなみーんな頑張りすぎなのに!」

 拳を砂浜に叩きつけて、ナマエは泣きそうな声を上げた。

「なんで私が全部代わってあげられないのかなあ、修行もなんでもいくらでもするから、リクたちに休息をあげることはできないのかなあ……」

 ナマエに寄り添って、ただ見守る。ぐず、ぐず、とナマエが泣き出したから、慌てて抱き寄せた。ナマエの細っこい体をしっかり抱えて、ひとりじゃないと伝える。

「ナマエだって魔法の修行を頑張ってたじゃないか。今は俺達にはできない、見守るっていう修行までしてる。カイリを見守るのはもしかしたらもっと辛くて怖いかもしれないけれど、大丈夫だ。俺たちがついてる」
「……何かあったら私も、カイリを守る」

 涙をぬぐいながら、ナマエが俺を見上げた。

「だから私も、連れて行って」

 俺はナマエの潤んだ瞳を見つめて、静かに頷いた。
 落ち着いたナマエを連れてカイリの元へ戻ると、カイリは溌溂と笑ってみせる。どうしたんだ、と聞くより先に返事が返ってきた。

「ありがとう、リク。お姉ちゃんを説得してくれて」

 俺とナマエは、すべてお見通しで待っていたカイリの聡明さに、何とも言えない気恥ずかしさを覚えた。

王国心夢イベントワンドロ企画参加 お題「修行」



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