「ナマエ、食事はできたか?」
「少しだけ……」
「水と薬は?」
「飲みました……朝と昼、たぶん」
「よし、偉いな」
ベッドに臥せるナマエの頭を撫でてやる。苦しそうな呼吸を繰り返しているのが、一瞬緩んで、ほわっと笑顔を浮かべた。俺に撫でられただけでこんなに幸せそうなら、いつだって撫でてやりたい。
ナマエが病に罹ってから四日が経つ。最初の三日間はなんとか休みを繕って看病していたが、これはまずいと思い、今日はガンダルヴァー村まで行き、ティナリに薬の処方を頼んだ。その後スメールシティまでとんぼ帰りしてきて、マハマトラの仕事に支障なくしばらくナマエについてやれることを確認して戻ってきた。
シティの医者よりも、ティナリを選んだのは、ナマエがアランナラに育てられた人間だからだ。ティナリはそのことも加味して、なるべく味と匂いの薄い薬にしてくれた。
「じゃあ俺と一緒にスープを飲もう。夕食だ。その後は新しい薬を飲んで、体を拭こう」
「ありがとう、そうしたいです」
それなりに料理ができる俺でも、ナマエの食事には気を遣う。アランナラの味覚で育ったナマエには、どうも何もかも味が濃いらしいから。見た目は同じでも味はかなり違うスープが二皿満たされると、ナマエに渡した。少しずつ人間寄りに味覚を矯正しているが、まだまだ薄味だ。
「とってもあったかくておいしい」
「良かった。薬も飲みやすいものに変わったはずだ」
「ナラはすごい! なんだか楽しみです」
問題なくスープを平らげ、ティナリの薬を飲んだナマエ。よほど飲みやすかったのだろう、微笑みながら水で流し込んでいた。
……ナマエの体を拭くとき、俺は何となく緊張してしまう。とびきりの壊れものを扱うような調子で、彼女の肉付きの少なさを心中で嘆きながら、そっと、ぬるま湯で湿らせたタオルを当てる。
「早く、もう少し育つと良いな」
「セノみたいになりたいです」
「それは難しいんじゃないか……」
「どうして?」
くるりと振り返ったナマエの晒された胸を直視してしまい、反射的に目を逸らす。
ナマエ、お前は俺のようにはならない、きっと。
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