KH リク

 ナマエ。カイリの姉。趣味は写真と読書。体が弱い。
 星の降る夜にやってきた女の子。
 当時の俺には、二つも年上のナマエがとても大人のように見えて。
 だから、風邪をこじらせて寝込んでいて会えない日が多かったのが、ちぐはぐに感じられて。
 子どもなのか、大人なのか、ふわふわとしていてわからなかった。
 ある日の晩、カイリが泣いて電話をしてきたことがある。「お姉ちゃんがいなくなっちゃった」、と。
 高熱を出して寝込んでいたはずなのに、気が付いたらいなくなっていたらしい。
 俺たちは総出で島中を探して回った。まだ十代の女の子、しかも病気の子どもが行ける範囲なんて限られているはずだから大丈夫だと、村長は泣きじゃくるカイリを励ましていた。

「……それってどうなったんだっけ?」
「浜辺の木陰で倒れてるのをワッカが運んで来たんだよ」

 ぱしゃり。一枚、断りもなく俺の写真を撮りながら笑うナマエに返す。
 昔話に花を咲かせると、だいたいこうなる気がする。ナマエのやらかし伝説。成長するにつれて体も丈夫になったようだけれど、俺から見たらまだまだだ。

「私の記憶ではソラが見つけて揺さぶったり、うーん、一番は……リクに見つかったことのほうが印象的なんだけれど」
「なんだか悔しかったんだ、ワッカがナマエを運んで来たとき」
「へぇ?」
「どうして見つけたのが俺じゃなかったんだろうって」

 カメラを置いて、ナマエが俺を見る。澄んだ青色が俺を見据える。気恥ずかしい。首をかしげて「どうしてそう思ったの?」なんて意地悪く聞いてくる。でもナマエにとっては無邪気な疑問で、さらさらの髪が流れてふんわり香りが漂ってくる気がして、心臓がせわしなく鳴った。

「多分もう、その頃から俺はナマエに惹かれてたんだよ」

 聞いておきながら、ナマエは初心らしく顔を真っ赤にして、「そ、そうなんだ」とうつむいた。耳まで赤くしていて、少し、やってやったと思った。

「……私も思えば、そうかも」
「何が?」
「リクに、惹かれてたの」

 今度は俺が赤くなる番だった。



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