「おうい、ナマエ」
「……ん?」
名前を呼ばれた気がして、ナマエは地面へと視線を落とす。
青い服に身を包んだ銀髪の青年――その面はえらく整っており中性的で、しかし「綺麗だ」などと言おうものなら彼のコンプレックスを大いに刺激するだろう――が軽く手を振りながらナマエを見上げている。
ナマエが今いるのはギア・アブソリュートの手の上だった。こうしてギアの上に乗って、コックピットとは違う高さから景色を味わうのがナマエの楽しみの一つなのだ。
エーテル力を使って、なかなかの高所から飛び降りたナマエは、青年・ビリーの元へ歩み寄る。
「どうしたんだい、ビリー。バルトとの口喧嘩は終わったのかい?」
「あんなの喧嘩でもなんでもないさ。ただ見逃せなくてね」
「何が? バルト、何かしてたか?」
うん? と片手を腰に、もう片手を顎に当てて首をかしげるナマエに、ビリーは嘆息した。
「僕が見逃せないのは、君のことさ」
「俺?」
きょとんとするナマエ。「どうやらごまかすつもりみたいだね」少し苛立ちを帯びたビリーの声に、ナマエは本当に分からないといった顔で返している。
ナマエの右腕を掴んだビリーは、彼女のソラリス軍服の袖を一気に捲った。
……服の下に隠されていた腕は、真っ赤に染まっていた。服に染みていないことなどから血はすぐに止まったらしいが、まだ痛々しい、焼けたような傷跡がある。
「あ……」
「君から血の匂いがしたから、早く手当てをしなくちゃと思ったんだ」
「こんなことになってたとは」
「気づかなかったってのかい?」
「うん」
「……困ったな」
呆れた、と言いかけてビリーは言葉をそう変えた。ナマエがとても悲しそうな顔をしていたからだ。戦闘で負った傷というわけでもなさそうで、だからと言ってナマエにも心当たりがないようで。
この、わざわざ男のふりをしてまで強がるひとをどうしたものか、ビリーは常々考えていた。
「ナマエ、君って、実はとても魅力的なヒトだって自覚ある?」
「いきなりなんだよ色男!?」
その反応から自分が異性として認識されていることに安堵したビリーだった。
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