今日の仕事を終えて、オルトに連れられて僕の部屋に来たナマエ。オルトと手を繋いでくるくる回っている。大事な弟と大事な彼女が幸せそうに戯れている。ああ、本当に幸せな光景だ。
ナマエの淡い栗色の髪の毛がふわっと揺れて、ちらりと耳がのぞく。やんわりとがった耳。妖精の名残を見せるそれ。そういえばナマエは、妖精と人間のハーフなんだった。どこかにも確かハーフがいたけれど、あいつは耳が丸かった……。個体差があるんだろうな。ということは寿命も違ってくるのかも? 僕はナマエとずっと一緒にいられるけれど、ナマエは……そのあと、どうするんだろう。新しい誰かと過ごすんだろうか?
「嫌でござる嫌でござる嫌でござる……」
「兄さん、どうしたの?」
「イデアくん?」
プログラムを書く手が止まってうわ言が飛び出してしまった。くるくるしていたオルトとナマエが揃って僕の顔を覗き込みにやってくる。頭を抱えてわしわしに
きむしっている姿はきっと、優しいふたりの肝を冷やしただろう。自己嫌悪からそのまま机に突っ伏す僕を、ふたりが囲むのが気配で分かった。
「何かあったの? 大丈夫……じゃなさそう」
「ナマエお姉さん、兄さん多分なにか考えこんじゃったんだ……。それで落ち込んでる。励ましてあげよう!」
「ど、どうしたらいいかな?」
「うーん……。えい!」
何をされるんだろう、と思っていたら、オルトが勢いよく飛びついてきた。「兄さん、ナマエお姉さんにこうされると元気になるよね!」図星です、ハイ。すると反対側から、そっとナマエがくっついてきた。
少し顔を上げてナマエを見ると、白い肌がほんのり色づいている。
「これでイデアくんが元気になるんだったら、いくらでもする!」
「ほ、本当にござるか?」
「もちろん。私はあなたのこと、大好きなんだもの」
花のような微笑みとはナマエの笑みのことを言うんだろう。僕が、嬉しい、と返す前に、オルトが身を乗り出してきた。
「ナマエお姉さん、僕のことは? 好き?」
「当然でしょう? オルトくんのことも大好きだよ」
「やった〜!」
そのあと僕はふたりと一緒にベッドで休息することにした。さすがに三人では狭かったけれど、それに勝る喜びがあった。
きっとナマエなら、死んでしまっても僕をひとりにはしない。
なぜか、そう強く実感できたから。
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