以来、ナマエは、ウツシとよく話すようになった。指導を受けることもまれにあったが、ヨサクが「教官式訓練はナマエには荷が勝ちすぎです」と止めに入った。ナマエはその通りだと思い、改めて、ハンターを諦めるよう言った兄の判断は間違っていなかったのだと悟った。
それでも、自分の力不足を嘆くことは多かった。
幼い頃から共に過ごしてきたハヤテもヒスイもいつかハンターになる兄についていくのに、自分はできない。
……寂しい。
そんなナマエの気持ちを察したように、ある日、休憩中にウツシはナマエに言った。
「里守の仕事も十分に大事なんだけど、ナマエちゃんは満足していないみたいだね」
「はい……。もっと自分にしかできないことをやれたらと思うんです」
「ナマエちゃんにしかできないこと、かぁ……」
ならこういうのはどうだい。ウツシがにこにこと提案する。
「素敵なお嫁さんになって、旦那さんが帰ってくる家を守る存在になるんだ」
「お嫁さん……」
ぎこちなく、恥ずかしそうにもじもじしながら、ナマエは返す。
「ウツシ教官は、私がお嫁さんだったら、嬉しいで――」
「すっごく嬉しいよ!」
その瞬間、すっかりナマエはウツシにハートを捕獲されてしまったのだ……。
――というふうなことを考えているのを、黙る妹を見つめながらヨサクは分かっている。様々なその現場に、彼自身遭遇したからである。自身の師匠と妹が仲良くなるのは構わない。だが。お嫁さん。嫁。ヨメ。あの教官の。
「ウツシ教官のお嫁さんだなんて苦労するに決まってるんだよなあ……」
「呼んだかい愛弟子!」
「うぎゃあ!」
ヨサクは跳ねた。いつの間にか戸口にウツシが立っていたからだ。
「なんだか愛弟子とナマエちゃんが俺のことを話している気がして来たよ! 当たっていたね! 久々に組手でもするかい愛弟子よ! そのあとはナマエちゃんが用意してくれたお昼ご飯をみんなで囲もう!」
「勝手に予定組み立てないでください。俺は一狩り行くつもりです」
「じゃあナマエちゃんと見回りをしようかな」
「妹を連れまわさんでください」
「どうしてだい? 俺の未来のお嫁さんだよ?」
「ま・だ・で・しょ!」
ヨサク渾身の右拳をするりと避けて、ウツシはハッハッハと笑った。先の彼の発言を聞いて、ナマエはすっかり赤くなってしおらしくなっている。未来のお嫁さんという言葉によほど感激したようだ。
額に手を当て、ヨサクは頭を振る。
「俺は絶対反対なので……。でも相手する気力が今ないので……お昼食べるなら勝手にどうぞ」
「おやっ、良いのかい? じゃあお言葉に甘えようかな!」
「でも仕事はいいんですか教官」
「今ちょうど空いてるんだ」
ナマエは兄の様子を確認してから、ウツシに向き直る。
「じゃあごゆっくりどうぞ。いつも働きすぎなんですから、教官は」
「ありがとう、ナマエちゃん!」
団らんし始める二人の横で、ヨサクは狩りの準備をする。今日こそはこの二人を何とか結婚させずに済む妙案が浮かぶことを信じながら。
ハヤテとヒスイは、そんな主の様子を見て、肩をすくめるような事態であった。
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