※原作終了後
新宿の夜。青白い月。
目の前にふと現れた、燐光を放つ人の影。
「あなたが乙羽ね」
真っ白な少女だった。
いや、少女と呼ぶにはほんの少し大人びている。眼差しだけは赤く、他は纏う衣服も全てが白かった。
あまりに不自然で唐突な出現に、驚きこそすれ、警戒はしなかった。
乙羽は頷いて答える。
少女は笑った。
「鵺さんのこと、助けてくれたひと」
「鵺を……知っているのか?」
「私は、鵺さんの最初で最後。とうにひとつにとけた、いきもの。だからあなたに会ってはいたけど、私ひとりで会うのは初めて」
感覚的な呟きに乙羽は困った。
それを見て、ますます少女は笑う。
「私にとって鵺さんは大切なひと。あなたは鵺さんを助けようとしてくれた。ありがとうを言いたかったの」
「俺は……」
「判らなくていい。そのままでいい。街を守る鴉のせんせい。ありがとうね」
少女は一方的に告げると、踵を返した。青白い燐光が、小さな雷のように一瞬だけ弾ける。すると少女の姿は、瞬く間に掻き消えてしまった。
呆然と立ち尽くす乙羽のそばに、今度は違う少女が姿を現す。ゆりねだ。
白い少女が消えた先を見ながら、ゆりねは呟く。
「あれは、人と呼ぶには脆く儚い。だが確かにこの世に在った者の遺志。魂の名残だ」
「魂の名残?」
「話から察するに、鵺と何らかの繋がりがあったのだろう。……よほど惚れ込んでいたようだな」
憐れみの滲む声だった。
乙羽は何も言わずに、月を見上げる。
青白い燐光。あの少女とよく似た、ひかり。
鵺と少女がどんな経緯と繋がりを持っていたのかは判らない。しかし、少女の眼差しには深いふかい情愛が宿っていた。
鵺を、想っていたのだろう。
――どうか、安らかに。そして、穏やかに在りますように。
乙羽は、ひっそりと祈った。