愛の宣戦布告
 王子は困りました。

「ラプンツェル、俺はもう帰らなくちゃいけない。返事はまた今度聞きに来る」
「聞きに来るも何も、そんなつもり毛頭無いですよ俺…」
「はい、って言ってくれるまで来るからな」
「えぇ? ……って!」

 窓のへりに足をかけて笑う王子に、ラプンツェルは驚きました。ここから飛び下りようというのでしょうか、彼は。

「駄目っ!」
「え?」
「この辺りには茨が生えてるんだ。飛び下りて茂みに突っ込んで、目を引っ掛けでもしたら大変だろ」

 王子をどかすと、ラプンツェルは自分の髪をそっと塔の下に向けて垂らしました。

「ほら、これで下りて」
「……っ」
「あなたさ、本当に運が良いよね……。昼間来てたら魔女に見つかって酷い目にあってたろうよ」

 王子は無言で震えていました。不審に思ったラプンツェルが顔を覗き込むと、

「ラプンツェルっ!」

 がっしとラプンツェルを抱き締めました。

「ありがとう、ようやく俺の為に髪を垂らしてくれたな」
「よ、ようやくも何も会ったばかりなんですが……」
「本当にありがとう」

 王子の笑顔と心からの感謝に、ラプンツェルは真っ赤になりました。
 一方、塔の下では素頓狂な声が上がっています。塔から垂れた黒髪に驚いたようでした。
 王子はもう一度ラプンツェルを抱き締め「また明日な」と笑い掛け、下りて行きました。

「待たせたなシンジ!」
「っこのダアホが!」
「いでっ!」

 下で合流したふたりは、わいわい騒いでいます。

「だがシンジ、聞いてくれ。俺、この塔に住むラプンツェルと結婚しようと思うんだ」
「おー遂に身を固める決心がついたか。喜ばしいな」
「何勝手に決めてんの!?」

 思わずラプンツェルは身を乗り出しました。
 まず視界に移った、白いふわふわした犬に、ラプンツェルは密かにときめきました。ふっと従者と目が合います。

「テメェがラプンツェルか?」
「あ、はい」
「……アキを、頼む」
「だから決まって無いって!」

 従者は悟ったように続けました。

「こいつ、馬鹿だから。多分諦めねえぞ」
「やっぱ馬鹿なんだ……」

 ラプンツェルも悟ったように呟きました。
 王子は気にとめる様子も無く馬に跨がります。

「よし、行くか」
「おう」
「ワンッ!」

 去って行く人影を、ラプンツェルはじっと見つめていました。
 それからふと塔の壁に視線を戻すと、溜め息をついたのでした。

「……壁、ボロボロだよ」
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