幽閉の身の歌姫
入口の無い、ラプンツェルがいる高い塔へ上る方法はひとつでした。
「ラプンツェル、君の長い髪をたらしておくれ」
魔女が言うと、ラプンツェルはたった一つの窓から長い長い黒髪をたらします。
それをはしごのように上って入るのでした。
「毎度思うんだけど、俺の毛根大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だラプンツェル。この桐条美鶴の魔力に抜かりは無い。君も私の力の恩恵を受けていると言うことさ」
「なるほど〜」
美しく育ったラプンツェルは、一応男子でした。
「また入り用があったら気兼ねなく鳩でも捕まえて飛ばしてくれ」
「大丈夫です。いっつもありがとう美鶴さん」
「なに、当然の義務だ」
そうして魔女はまた、ラプンツェルの髪を伝って帰りました。
ラプンツェルは監禁生活になんら疑問を抱きませんでした。なにせ、魔女は親切な美人でしたから、一応男子であるラプンツェルは文句もつけようがなかったのです。
『外界には、危険もいっぱいだからな』
ラプンツェル自体がかなりマイペースだったので、「まあ、外ってそんなもんなんだろなぁ」と納得していました。
そんなある日、いつものようにラプンツェルは暇潰しに歌を歌っていました。
「風の… …の粒 まどろむキミに……」
そこに近付く、ひとつの影。
影は、馬に乗ったまま塔の下で立ち止まりました。
「良い歌だな……」
眩しい銀髪、調った容姿。何処か勇猛さを忘れないその人は、この国の王子でした。
王子は歌声の主を一目でも見たいと思い、塔の入口を探しました。
しかし何処にもそんなものはありません。
「くっ、何処から入れば良いんだ!? こうなったら……」
王子が塔の壁を上ろうと鉤爪のついたグローブを取り出しかけた時です。
「アキ! 何してんだ帰るぞ!」
「ワンワンッ!」
幼馴染みの従者と、狩りのお供である白い柴犬に見つかってしまいました。
こうして王子は、仕方なしに城へと帰ったのでした。