くよくよは性に合わない
城に帰った王子の塞ぎ込みっぷりは凄まじいものでした。
「荒垣さん、真田さんったらどうしちゃったんすか?」
「最近ご機嫌だったのに……」
「クゥーン……」
「なるほどなー。失恋でありますか」
「先輩ほどの人が失恋って、まさしく難攻不落な相手じゃない……?」
城の人間は、王子の異変を大層心配していました。
耐え兼ねた従者は、駆け出しました。目指すは王子の部屋です。
引き摺り出して喝を入れるつもりでした。
しかし。
「……アキ?」
王子の部屋はもぬけの殻でした。机の上に、一枚の書き置きがあります。
『しばらく空ける。
やっぱり俺には、
諦め切れないみたいだ』
従者の気遣いは無用だったようです。
王子は傷も癒えぬうちに、再びラプンツェルと出会う為に旅立っていきました。
その頃、砂漠のラプンツェルは、魔女が施してくれた氷の魔術のお陰もあり、静かに眠り続けていました。
なのに、困ったことがありました。
幾ら眠っても、見る夢が同じなのです。
『ラプンツェル!』
それは、王子がやってきてからの毎日を思い返すような夢でした。
端正な顔を、子供のようにくしゃくしゃにして笑って、自分の名前を呼んで来る、王子の姿ばかり……。
今、彼はどうしているのだろう。
(今更だけど、俺、王子のこと好きだったんだなぁ)
けれども、もう会うことも無いだろうから。どうか可愛いお妃さまを捕まえて、幸せになってください。
ラプンツェルは、ちくちくと胸が痛むのを知らん振りで、また静かな眠りにつきました。
……しかし、やはり落ち着きません。
仕方なしに、暇を潰そうと歌を唱い始めました。
「世界を… 守ったから…」
王子が好きだと言ってくれた歌を唱ううち、ラプンツェルの瞳には涙が浮かんでいました。
ラプンツェルは、唱い続けました。