ブフダイン
次の日も、また次の日も、王子はラプンツェルに会いに来ては、妻になって欲しいと頼みました。
耐え切れなくなったラプンツェルは、遂に、王子がやって来たことを魔女に打ち明けました。
「このままじゃまた、壁に傷が付くし、いつまでも来るかもしれない……」
「ラプンツェル。君は王子が嫌なんだな?」
「だって、あんな非常識なひと、どう接したら良いか判らないし。俺、男だし」
そこで魔女は提案しました。
「君はいっとき、砂漠に身を隠していると良い。私がその王子に会って、ラプンツェルには妻になる気持ちが無いと話してみよう」
「砂漠?」
「私の魔力でフォローする。その為には、だ……」
魔女は、ラプンツェルの長い髪を手にとると、背中辺りでばっさり切り落としました。
「この髪も邪魔だろう。さあ、行こうか」
「はいっ」
そうしてラプンツェルは、ひとり、砂漠の真ん中で過ごすことになりました。
やることもないラプンツェルは、静かに眠ることにしたのでした……。
次の日、何も知らない王子は、何時ものようにビーストファングで壁を上りました。
しかし塔に入ると、ぎょっとします。
いつもいるはずのラプンツェルの姿は無く、立っていたのは魔女でした。
足元には、無残に切り落とされた黒髪。明らかにラプンツェルのものです。
王子は怒りました。
「魔女め! ラプンツェルに何をした!?」
「それはこちらの台詞だな。君こそ、ラプンツェルに何をした」
魔女の鋭い視線が王子を捉えます。
「ラプンツェルは繊細なんだ。変なちょっかいを掛けてくれるな」
「俺は……ッ!」
「君のせいで平穏を乱されたラプンツェルは、ショックから深い眠りについてしまった。そして、もう誰にも汚されぬよう、私が砂漠へ運んだ」
王子は愕然としました。
純粋に想い続けていたつもりでした。それがラプンツェルを追い詰めてしまっていたなんて。
がくりとくずおれた王子は、嘆き、悲しみました。
すべて魔女の口車だとは気付きもしません。
「ラプンツェルと君が出会うことは、もう無いだろう。さあ、諦めて帰ると良い」
王子は、静かに身を翻しました。生きる気力を根こそぎ奪われたような気分です。
ふらりと窓枠に近付き、魔女が止める間もなく、そのまま飛び出しました。
地面を転げた王子は、目に鋭い痛みを感じました。何時かの日、ラプンツェルが忠告してくれた茨の事を思いだしました。
「茨の棘か……」
そこに、従者がやってきました。ボロボロの王子を見て、目を丸めます。
「アキ!?」
「……シンジか?」
「テメェ、目が……。ったく!」
元気のない王子を、従者は急いで担ぎ、踵を返します。
魔女は塔の上から、じっと二人を見ていたのでした。