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 ※直接的な描写はないですが下ネタがあります。苦手な方は閲覧をお控えください。




「ちょっとミユキさん、枕が高いんですけどー」

「……腿が太いからこれ以上は低くならねーよ」

「うーん、首がこう……いい角度に」


 澪が俺の太腿に頭をのせて、少しずつ動きながらベストポジションを探している。いつもならあり得ないこの状況を作ったのは、先程までの夕飯の時間だ。





 シーズンオフ中のトレーニングとメディアの出演仕事を東京で済ませた後、澪の家に来た。仕事から帰宅した澪と飯を食べたが、澪が明日は休みだということもあって酒も一緒に飲んだ。俺的にはまだまだ飲める──飲み始めの酒量だったが、目の前の澪は顔を赤くして目が据わり始めた。


「……もう酔った?」

「──ううん?」

「そんな酒弱かったっけ」

「酔ってないって。このお酒美味しーね、持って来てくれてありがとー」


 貰い物だったけど、女性に人気があるという果実酒を、澪は気に入ったようだった。食事も軽快に進んではいるが、口調は伸び伸びで、グラス2杯程度でこの様子は色々と不安になる。


「仕事終わりで疲れてるから、いつもよりお酒がまわるのが早いんだと思う」

「……職場の飲み会とか大丈夫なのかよ? 大体仕事終わりだろ。こんなすぐ酔っ払うんじゃ──」

「いつもはこんな酔わないよー。家で飲むとすぐ酔っちゃうけど」

「……外であんまり飲むなよ?」


 思わず心配が入り混じった声色に、当の澪からは「分かってるー」と軽く返ってきて小さく息を吐いた。
 本当に分かってんのか。普段より数倍もガードが緩くなってるように見えんだけど。


 「ごちそうさまでしたー」とテンション高めで手を合わせた澪は、食器を流し台に持っていく。すぐに食器の後片付けをするのは酔っていても変わらない。小さい時からついた習慣というべきか、作業のスピードも早く、俺が手伝おうとした時には粗方終わっていた。
 澪は「あつーい」と言いながらテーブルまで拭き上げた後、二人掛けソファに腰を下ろした。


「まだ飲む?」

「いーい……」

「じゃあお茶持ってく」


 冷茶を入れたコップを両手に持ってソファーの前にあるテーブルに置いた。澪の隣に座ると、澪が俺に寄りかかってきた。肩に顔を寄せて体重をかけてくる。


「冷蔵庫開けた時見たけど、あの酒結構アルコール強かったな。わりぃ」

「いいよー……美味しかったから。また今度飲む……」


 そう言うと、澪の身体がどんどんずり下がり、頭が俺の腿の上におさまったのだった。





「なんでこんなに太いの〜」


 完全にリラックスモードの澪からは、酔いも手伝って普段だったら絶対言わないような言葉がポンポン飛び出す。下を見れば、明らかに澪の首に負担がかかってるのが見てとれた。


「しょうがねーだろ……キャッチャーは皆太いんです」

「私が膝枕させてあげる時は気持ち良さそうにしてるくせにズルい」

「ズルいって言われても……こればっかりはどうにもならねーからな〜」

「意地でもいいポジションを見つけてやる〜」


 澪はそう言うと、俺の太腿の上で頭を少しずつ移動させながら位置を模索し始めた。仰向けになったり横向きになったり、腿に顔を埋めてみたり。
 澪の顔が俺の腹に密着する位置になると、反射的に身体が強張る。


 澪サン、ちょっと色々と都合が悪い位置もあるんですけど……


 しばらく体勢を変えたりした後、澪は諦めたのか俺の腿から頭を下ろしてソファに寝転んだまま顔を寄せた。俺にくっついているのは変わらない。

 流石に狭いかと思い「場所空けようか」と聞くと澪は首を振る。


「身体痛くなるって。眠くなったんなら、早めにベッド行った方が──」

「やだ」


 いつもの澪ならこんなにしつこくない。普段の澪ならすぐに「冗談だ」と言って離れたりするのに、今日は駄々っ子のように俺の足にしがみついている。


「まだ時間早いのに、寝たらもったいないか……ら……」


 そう言いながらも目は閉じかかっていて今にも寝落ちしそうだ。このまま眠ってもいいと思うのに、澪は眠気に必死で抵抗している。俺は澪の身体に軽く触れながら目の前で流れているテレビのバラエティー番組を見ていた。あえて澪に話しかけないでいたら、太腿周りが大人しくなった。
 そうっと下をうかがうと、澪の目蓋は閉じたまま全く動かない。


「……澪、寝た?」


 確認しようと小声で話しかけたが反応が無い。俺と一緒にいる時に澪がこんなに早く眠るのは珍しい。明かりも煌々と点いている部屋で、澪の寝顔をじっと眺めているなんて今までに無かったと思う。


「……いつもこのくらい甘えてくれればいーのにな」


 小さく呟いた一言は、当然何の返答も無く空間に漂った。寝ている澪の頭を撫でながら、素直に甘えるなんて滅多にない澪を眺め口角が上がる。いつも俺の立場のことを考えて行動しているのが分かるから、学生の時でさえ少なかった澪の甘えに思わず顔が緩んだ。
 プロの野球選手になって、付き合いで行く飲みの席で女にひっついて来られた時と比べても、澪が同じことをしたら「もっとしてきてもいいのに」なんて思うのは、俺の気持ちの有無と普段澪が甘えてこないからだろう。


 そんなことを思っていると、澪が「ん〜……」と言い身じろぎをした。ソファで、密着して寝返りをうった澪は、無意識か俺の太腿に再び頭を乗せた。が、澪の顔が俺の股間の前にある状態になって冷や汗をかく。そして顔を更に俺に密着させ擦り付けてきたので、俺は激しく動揺した。


「澪っ、ちょっ、この体勢マズいから!」


 慌てたまま声を上げたら、澪が目を開けた。起こしたくはなかったけど、もう1人の俺が目覚めてきてヤバい。


「……あ、寝ちゃってた……? ゴメン」


 ゆっくり目を開けたり閉じたりしている澪はまだ寝ぼけている。目の前の状態に気付かれたら怒られそうで、俺は精一杯腰を引いていた。
 澪に気付かれる前に膝枕から下ろそう、と思っていたが時すでに遅し。俺の股の前でパッチリ目を開けた澪が悲鳴を上げた。


「な、なんで起っ……!?」

「澪寝てたから知らねーだろうけど、密着してきたらこうなるって……!」

「え……? 私何かしたの?」

「こう、顔をグリグリと」


 完全に言い過ぎだったようで、澪は更に大きな声を上げ起き上がると、慌てたまま手を振り下ろした。もう1人の俺に。


「いっ……てぇ──!!」

「あ! ご、ごめん!!」


 わざとじゃない!と言いながら慌てる澪に、俺は痛みで返事を返せないでいた。
 さっきまでの雰囲気は何処へやら。
 痛いけど、俺より慌て出した目の前の澪が可愛くて許せる。
 冷や汗をかきながらも、思わず擦ろうとする澪の手は丁重に断った。









2018.8.30
 



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