09
「うわ、平日かあ〜」
「──しかも昼からですよ」
「──どうかしたんですか?」
就職して1年と少し過ぎた頃の昼休み、職場の先輩達がスマホを片手に何やら騒いでいる。
スマホの画面を食い入るように見つめる人達の後ろから不思議に思い声をかけると、先輩は「これ見てみ」とスマホを私に渡してきた。
「プロ野球の1軍の試合がこっちであるんだよ──だけど平日の昼間開始」
「夏休み時期だからだろ〜。その日仕事休むかあ」
渡されたスマホの画面を見ると、プロ野球の試合の観戦チケット予約画面が表示されており、場所はここから近くの球場だった。
「この前球場の改築工事が終わったからさ、記念試合じゃね?1軍が来るなんてホント何十年振り」
「そっか、地元っすもんね」
プロ野球の1軍の地方試合は、各球団年に何回か開催している。
先輩達の話が弾む中、私も会話に加わった。
「どのチームの試合で……」
言葉を口にしたと同時に、画面をスクロールしていた指が止まる。
表示されていた対戦カードは、一也の所属チームvs鳴の所属チームだった。
「成宮も何年か後にはメジャー行きそうだろ?今のうちに見とこーぜ」
「その日成宮が投げるか分かんないじゃないっすか」
「──賭ける!」
「……って思ってる人多そうだから満員だろーなー」
私が微かに動揺していることに、先輩達が気付いていないのが救いだ。
「立木の兄貴のチームじゃなくて残念だな」
先輩が私に向かって涼くんの話をしたことで、止まっていた思考が回り始める。職場には私の姉兄の話はとうに知られていた。
私は先輩にスマホを返しながら答える。
「東京に帰った時に会えるし、試合も観に行けるので」
「そーか、──じゃそういう訳で、立木〜」
「分かってます。私観に行かないですし、有休取る予定もないのでどうぞ休み取って下さい」
「ありがてぇ〜──じゃあチケット取ろ!」
「……何人くらい休むんですか?」
「分かんねえけど一緒に観に行く奴いるか聞いてみるか、なんだかんだ野球好きな人多いし」
「……引継ぎはちゃんとお願いしますよ」
傍から見ても浮足立っている先輩に念押ししたら、先輩は一言返事で観戦メンバーを募りに行ってしまった。
私はさっき見た試合日程を思い返す。
「……あと2ヶ月後か」
その日に一也と鳴がこっちに来る、私と同じ土地を踏んでいる。
そう思っても、今はまだ現実味は湧かなかった。
2017.6.8