2016 Summer


「見ろよこのウェイト後の身体!」

「俺ら高校生のボディビル大会とかあったらいいセンいくんじゃね?」


 野球部寮付近でぞろぞろと大男達が上半身裸でうろついているのを、仲間の枡は見逃さなかった。


「コラお前ら!!裸でうろつくなって何回言や分かんだよ!!」

「枡ー、トレーニングの成果が目に見えて分かる、って快感だろぉ〜」

「俺達はボディビルの大会目指してんじゃねーんだよ!甲子園だろが!」

「枡さんもウェイトの後1回脱いでみればいいじゃないっスかあ〜」

「お前は語尾じゃなくて眉毛伸ばせ、常!!」


 枡は後輩の小川に声を荒げた。成孔学園野球部は重量打線が売りのチームだ。特に身体作りに力を入れており、ウェイトは他の野球部より遥かに厳しい。


「もう夏だぜー、夏といえば露出度が上がるだろ〜?だから俺達も――」

「お前らの露出なんて求められてねーんだよ!野球部員がユニフォーム着てなかったらただの変態だろーが!」

「――枡さんは分かってないっスね、男の美学が」

「――あ?」

「鍛えられた男の肉体を、女子は見たくなるものだと思うんス」

「アンパンマン尊敬してる奴が女子を語ってんじゃねーよ!!」

「彼を侮辱したら枡さんでも許さないっス」

「“彼”って言うな!!つーかお前らいい加減早く服着ろ!!」


 成孔野球部のキャプテンである枡は溜息をついた。チームメイトは練習中、試合中は頼りになる仲間だが、いざ野球外で蓋を開けてみたら自身が鍛えた身体に終始見惚れるというただの肉体ナルシストになりつつある。
 成孔で頑張ってきた証だと言ってもいい自分自身の身体だから胸を張っていい。しかしそれを所構わず見せつけることが問題だと散々言っているのに枡しか止める者がいない。



「苦情が無くなってる訳じゃねえんだぞ――」


 枡が部員を一喝しようとした時、後ろでキャー!という女子の叫び声が聞こえた。


「ちょっ……服着てよー!やだ!!」


 見たくない、とでもいう様に目を瞑りながら持っているプリントをぶんぶん振り回している制服姿の女子。枡は慌ててその女子のそばに駆け寄ると、同じクラスの子だった。


「落ち着け、悪い!後で厳しく言っとくから」

「きゃー……あ、枡くん!これ、先生から渡して欲しいって頼まれたの。プリント」

「あー、サンキュ……」


 気がつくと、枡と女子の様子をうかがっていた部員が周りを取り囲む状態になっている。当然他の部員はまだ服を着ていない。


「キャー!もーホントに早く服着て!!進○の巨人みたい!」

「巨人は全裸だけど俺らは違うぞ」

「お前ら服着るか離れるかしろ!」

「だって枡さんズルイじゃないっスか……こんな可愛い先輩がいるなんて俺知らなかったっス」

「――え?私、可愛い?」


 小川の言葉で、さっきまで嫌がっていた女子が一変した。瞬時に落ち着きを取り戻し、目を大きくして返答を待っている。


「――うス、枡さんには勿体無いっス」

「えー!やだ、ありがとー!野球部の皆ホント頑張ってるよね、いい身体してるー」


 散々嫌がる素振りを見せておきながらバッチリ半裸を見ていたクラスメイトに枡は軽く引いていると、女子は唯一裸になっていない枡に振り返った。


「でも枡くんの身体は興味あるかも〜」


 自分で言っておいて両手で顔を隠しながら恥ずかしがる女子は「じゃあまた明日〜」と言いながら去って行った。
 嵐が去ったその場は一瞬静まる。


「枡〜!!お前だけ良い思いしてんじゃねぇよ!」

「――あ?俺はドン引いてるけどな」

「肉食系女子っスね」

「やっぱり鍛えてても服で隠した方がいいのか…!」

「気にするとこはそこじゃねーよ!!」



 良くも悪くも甲子園に向けて一直線な成孔野球部に、枡の一声が響いた。








(進撃の成孔部員)
2016.7.14









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