2016 Spring



※アニメ派の方はネタバレになるので注意



 新学期。暖かくなった気温に誘われるかのように、新しいクラスでは皆やはり浮き足立つ。それは私のクラス、2−Cでも同様だった。

 3月までとは違う教室に足を踏み入れると、1年の時とはまた違うメンバーがホームルームまでの時間を思い思いに過ごしている。
 でもよく見ると、女子の様子が少しおかしい。赤面していたり、口を手で覆って内緒話をしていたり。中には泣いてる女子もいるが決して悲しそうではない。感極まっている。端々にいる女子は皆教室の中心に目を向け、興奮を抑えられないといった様子だった。いくら新学期でもこの状況には違和感しかない。

 教室後方の扉から入った私にはその原因らしき人物の後ろ姿しか分からないが、多分小湊くんだろう。1年の時も同じクラスだったから、後ろ姿に見覚えがある。

 ……小湊くんに何かあったの?

 黒板に書かれている自分の座席を確認すると残念なことに前の席だったので、自分の席につく道すがら小湊くんをチラ見しようと、私は彼の席の側を通った――が。

 一瞬。横目で見た小湊くんの姿がにわかに信じられず、私は思わず振り返ってその姿を凝視した。


「――あ、おはよう。また1年よろしくね」


 明らかに私に話しかけている小湊くん。しかしその言葉をすんなりと受け入れられない自分がいた。

 ――ていうか、何!?


「お、はよ、う。え、小、湊、くん?――髪、切った、の?」


 しどろもどろになるのも無理はないだろう。だって、今まで見たことのなかったものが見えている。

「うん、ほぼ前髪だけだけどね」

「あ、そーなんだ……――こちらこ、そよろしく、ね」


 口元に笑みを携えながら私を見る小湊くんを直視できなくて、私はすぐさま自分の席に着いた。
 冷静になって、今見たものを整理したい。
 私はカバンを開けながら悶々としていた。


 ――前髪は重要だけど!その人のイメージを左右するくらい前髪って大事だけれど!

 あんなに変わるもの!?


 私は今まで小湊くんの目をちゃんと見たことが無かった。長い前髪に隠れていて、見ようにも見られなかった。それが今、前髪フルオープンとなった彼の瞳は周りに全て晒されている。

 あんなに目、大きかったんだ。

 しかも思っていた以上に力強い。
 男子の前髪ひとつで、こんなに動揺するとは。クラスの女子が色めき立っている理由が分かる。
 きっと「今まで見たくても見えなかったものが堂々と全て公開されている」からだろう。
 例えるなら――今まで女子のパンチラもお目にかかれなかったのに、スカートおっぴろげで全部お目見えされているといったところか。


「……そりゃ興奮するわ……」

「え?何か言った?」


 思わず口から出た言葉に、私の後ろの席に座っている“東条”と呼ばれている子が尋ねてきたけれど、振り返った私は「ううん、何でもない」と苦笑いで答えた。

 そして東条くんの後ろには小湊くんが座っていることを完全に失念していた私は、またあの瞳から発せられる見えないビームにやられそうになった。


「が、眼力殺法……」


 もう顔を上げていられなくて、私は捨て台詞を残すと自分の机に突っ伏した。








(20万打アンケより:前髪を切った春市)

2016.4.11







×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -