2016 New Year



※ダイヤ(青道) 時代劇パロ




「今日の仕事は何だろな〜……うおっ!!?」

 いつもと変わらない日常かと思われたある日の朝、沢村栄純は自宅兼職場である長屋の玄関扉を開けた直後、後ろにのけ反った。
 彼は現代でいうところの便利屋にあたる『五号館』勤めの青年だ。戸が開放されたと同時に、沢村の顔面スレスレに握りこぶしくらいの大きさの石が飛んで来たのだ。思わず尻もちをついた沢村はすぐさまその石を拾い上げると、飛んで来た方向に目を向けたがそこには誰もいなかった。

「何だよ一体!!……あれ?」

 手の中にある石には紐が縛り付けられており、間に折り畳まれた半紙が挟みこまれている。
 沢村はその投げ文に気付くと、紙を抜き取り広げた。

「こ…れは!!――倉持の兄貴ぃ―!」

 沢村が大声を上げると奥の襖がスパァン!と軽快な音を立てて開き、沢村と同世代の青年が姿を現した。髪を逆立てており着物の合わせが大きく開かれている。

「何だよ!朝っぱらからうっせーな!」
「兄貴これを見てくだせえ!仕事の依頼ですぜ!」
「――あ?仕事?」

 沢村から投げ文を渡された倉持はそれに目を通すと、軽く舌打ちをした。

「今増子の旦那いねーんだよな、帰ってくるまで待つか」
「でも今すぐに、って書いてあるっすよ!近くに現れた道場破りを退治して欲しいって!」
「ーー報酬は依頼完了後、か。ったくこっちの足元見やがって」


「行くぞ沢村!」と声をかけた倉持は、いの一番に出ていった。沢村も一足遅れて後を追う。
 依頼状に記されていた道場まで走って向かっていると、前方に同じく走っている見知った姿を見つけた。同業であるため沢村がライバル視している男だ。
 沢村はその男に追いつくと並走した。

「何の用だ降谷あぁ!!」
「……仕事の依頼が入ったから。その様子を見ると――五号館にも?」
「この仕事はうちが引き受けーる!!お前のとこには渡さねえ!!」
「……できるの?」
「もう倉持の兄貴が先に行ってんだよ!!――あ!」

 全速力で走っている沢村と降谷は、前方に見える柳の木の下に佇む男に気付いた。片目に眼帯をし、にっと口角を上げているその男と2人は互いに馴染みの顔だった。

「よー、どこいくのお前ら」
「うるせー!仕事だ仕事!」
「俺も一緒していい?」
「何でだよ!今回は引っ込んでろ御幸!」
「そーいう訳にもいかなくてよ。俺ってほら、お前らと同業でも個人経営だから」
「じゃあ僕と組みませんか、御幸さん」
「何でそーなるんだよ降谷!」
「前から御幸さんと組みたいと思ってたんです」
「よーっしゃ、じゃあ決まりな!」

 3人とも横一列で走りながら会話していたが、目的地の道場に到着すると全員瞬時に気配を忍ばせた。

「一斉に突入するぞ」
「命令すんじゃねーよ御幸!」
「俺この業界じゃお前らより先輩よ?先輩の言うことは聞いとくもんだぜー」
「御幸さん合図お願いします」
「勝手に話進めてんじゃねえぞ降谷ー!」

 間髪入れずに御幸が突入のサインを出すと、3人は同時に道場めがけて飛び出した。何故か静かであるそこに足を踏み入れれば、うずくまったり倒れている男が数人。

「――!倉持の兄貴!」

 腹を押さえて壁にもたれかかっている倉持に、沢村はすぐに駆け寄った。

「さ…わむら、強いぞこいつは…」

 苦しそうに声を出す倉持の視線の先に目を向ければ、長刀を脇に差し、肩で息をしている長身の男が立っている。沢村には背中を向けているため顔が見えない。
 その男の奥に、床に膝をついて息を整えている男もいた。満身創痍だが目はまだ死んでいないその男に、沢村は見覚えがあった。

「結城の旦那……!」

 同業の中でもひときわ腕が立つと評判の結城でも深手を負っている。その近くでは結城と組んで仕事をしている伊佐敷も仰向けで倒れており、沢村は唾を飲み込んだ。

「あれは…片岡鉄心斎…!」

 御幸が目を顔をしかめて呟いた。ここにいる決して弱くはない猛者達を動けなくしている、御幸から「片岡」と呼ばれた男は振り返ると沢村達を凝視した。
 あまりの迫力と眼光の鋭さに沢村は一瞬怯んだが、唇を噛みしめ身体に力を入れる。

「どうした?――もう終わりか?結城……」

 片岡のゆっくりとした問いかけに目を見開いた結城は、震える膝に手をあて立ち上がると、片岡を見据えた。

「――もう一戦…お願いします…師匠…!」
「し、師匠!?」

 沢村が驚いているのを尻目に、片岡は結城を見て口角を上げた。

「よし、結城……いつものやついけ」
「い……いつものやつ、って!?」

 沢村と降谷が動揺していると、なんとか身体を起こした伊佐敷と倉持、側にいた御幸、そして結城がゆっくりと2人の元に歩み寄り、小さな円陣を作った。

「な…何すか?兄貴、これは何なんすか!」
「分からねえ…でも身体がいうこときかねえんだよ…!!」
「暗示にでもかかってるみてえに、勝手に身体が動いちまう……くそっ!」
「い、伊佐敷さんも!?」
「――身体が上手く動かせねー……まずいな〜」
「御幸までも―!!」

 叫ぶ沢村と無言で慌てる降谷を余所に、結城達は一斉に胸に手を当てた。その動作を見た途端、沢村と降谷も“そうしなければいけない”という意思にかられ、手を胸に押し当てた。
 何故だかは分からない。これから自分が何をしてしまうのかさえ。片岡以外の全員が一抹の不安にかられた。

「俺達は誰だ……?」

 結城が口を開くと同時に、道場の外から軽快な足音が聞こえ戸が開いた。

「皆、伏せて!!」

 身体に似合わない大きな声を上げた来訪者は、顔程の大きさがある鉄製の筒のようなものを肩に担いでいる。
 その声で呪縛から解かれたような感覚が身体に伝わった結城達は、自由に動けるようになったことが分かるとすぐさま床にうつ伏せになった。

 その直後、ドオン!と道場中に響き渡る爆音。沢村達の頭上では白煙が室内全体に広がり、思わず咳き込む。周りを見渡しても何が起こっているのかすぐには把握出来なかった。
 煙が薄くなりだすと、沢村は目をこらした。片岡が立っていたはずの場所には誰もおらず、道場奥にぼっかりと大きな穴が開いている。反対側を振り返ると、先程現れた小柄な青年が持っている鉄筒から煙が立ち上っていた。

「りょ…亮さん!?」

 倉持から「亮さん」と呼ばれた男は、沢村達に向かって大きく手招きしている。

「早く!仕事完了!行くよ」
「え?完了、ってええええ!?」
「か、片岡鉄心斎は!?」
「これで吹っ飛ばしたから大丈夫」
「「「えええええ−!!」」」

 沢村、倉持、伊佐敷が同時に叫んだ。道場の半分は砲撃で半倒壊している。

 この後の展開を想像して、亮さんもとい小湊以外は瞬時に青ざめた。一斉に道場外に向かって走り出す。

「なんつー無茶してくれたんすか!!」
「なんか苦戦してたし、これ一発で解決かと思ってさ」
「ここまでやれって言ってねーぞ亮介!道場破りだけじゃなく道場自体やっちまってどーすんだよ!」
「いくら尊敬してる亮さんでもこれはちょっと…」
「くっ……師匠……!」
「はっはっは、面白れ〜」
「……結局何も出来なかった……」





 結城、伊佐敷の仲間である小湊の助けにより、これにて一件落着――…?










2016.1.1





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