2015 Summer


 残響が聞こえる。




 甲子園はもっと暑かった、彼はそう言った。

 夏の甲子園予選決勝の、神宮球場のマウンドでは足りないと。
 甲子園の熱さが欲しいのだと、隣の席の彼は真っ青に晴れ渡る空を見つめた。




 2度目の甲子園出場を果たした彼は、照りつける太陽の下、綺麗にならした甲子園の土の上で堂々と白球を投げる。

 スタンドの大応援団。そこに埋もれる私はブラスバンドが演奏する曲に合わせ声を張り上げる。
 タオルを首に巻き、汗だくになりながら、何故私はここにいるんだろうと一瞬考えた。
 でも金属バットの音、周りの一喜一憂にすぐに現実に引き戻される。

 成宮が、稲実のみんなが、この暑い熱い空間で戦っている。

 稲実のブラスバンドの演奏と、対戦校のブラスバンドの残響が折り重なる反響に私は酔った。








 今年こそ甲子園で全国制覇、彼はそう言った。
 もう隣の席ではないけれど、ばったり顔を合わせた廊下で窓の外を見つめながら。



 成宮の高校最後の夏はまだ決まっていないが、目を閉じれば、耳を澄ませばすぐに思い出せる。



 あの甲子園の残響を。






2015.8.10



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