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 私のクラスは2−B。

 神様、何故私と彼を同じクラスにしてくれなかったんですか。
 もし彼が同じ教室にいたら、野球について語り合ったり、趣味の話をし合ったり、おでこをつつきあったり(以下略)出来てたかもしれないのにぃ!!

 …私と近しい同じクラスの野球部は、大好きな彼の相棒メガネと、チーターと比喩されて嬉しがっている髪の毛ツンツン男だ。


 お昼休みでも、教室に彼の姿は当然見当たらない。





「……なんで川上くんと一緒のクラスじゃないのよおおお〜!」

「――お前1学期からそればっか言ってっけど、しつけーぞ」

「うるさい倉持!こればっかりはいつまでたっても諦められない…!」

「3年があるだろ」

「3年になったら半年で野球部引退じゃないの!おまけに受験だし!ゆっくり愛について語り合いも出来ないし、野球の事でここぞとばかりに励ましてあげたり出来なくなるじゃない!」

「…そーか?てかお前ら付き合ってないだろ」

「い…いーのよ今はまだ!それより川上くんはあんたらと違って繊細なのよ!心が優しいのよ!カッコいいのよ…それなのに周りはイケメンキャッチャーがイイとか豪速球ピッチャーがどうとか」


 分かってないぃ!!私は心の底から叫んで机に突っ伏した。
 そんな私を御幸と倉持は溜息まじりに見やる。


「――俺この前廊下で立木と太田部長がノリの事でめちゃくちゃ盛り上がってんの見たぞ」

「え、マジ?」

「――ふっ。次の試合のピッチャーには是非川上くんを!部長権限で!ってお願いしといたのよ」

「…いやこればっかりは監督が決めるからな…」


 御幸が隣の席でスコアブックから目を離さずに呟いた。さも他人事の様に言う御幸にちょっとムカついた私は身体を起こす。


「何のためにアンタがいんのよ?キャプテンでキャッチャーでしょ、川上くんを支える要素十分なのに何よその言い草は!伊達にメガネかけてないんだからこんな時くらい見かけにならって有能っぷりを発揮しなさいよ!川上くんのために!」

「俺の眼鏡は伊達じゃないけど」

「ちっがーう!!ピッチャーの持ってる力を引き出すのがアンタの役目でしょーが!川上くんは御幸任せで手当たり次第投げてくる1年ピッチャー達とは違うんだからね!」


 私はいつの間にか立ち上がっていて、はあはあと息巻いた。御幸と倉持からは「おお…」と訳が分からない称賛が漏れる。


「お前結構試合見てんじゃねーか」

「だって私はLOVE川上!彼の雄姿を見逃さない為に毎試合毎試合グラウンドにクギヅケよ!」

「…じゃあこの前の試合はノリ出なかったから悔しいだろー?」


 御幸がニヒヒ、と笑いながら言った一言に、私は固まった。


「……そーよ、どんだけジタバタしながら見てたことか!!」

「――まあ、ノリはシンカー解禁したからな。期待してていいぞー」

「え!?シンカーって、助っ人外国人か何か!?」

「……お前、ノリがそんなに好きなら投手の球種くらい覚えろや」

「え!?シンカーって九州の選手!?」

「「……もーいい」」


 御幸と倉持が揃って私を見捨てた。非常に気になるので「教えなさいよコラ」と倉持の腕を掴んでいると、御幸が開いていたスコアブックをパタンと閉じた。


「――じゃあノリを溺愛してる立木に免じて、キャプテン権限を使って一肌脱いでやる」

「え、御幸の裸なんて見たくない」

「……今日の部活の前に話したい事があるから、ノリをここに連れて来てやる、って言ってんだよ」

「え!!?」


 今とんでもないこと言わなかったか。
 御幸は倉持に「ノリここに呼んできてー」と頼んでいる。


「何で俺なんだよ」

「俺が行くとそこで話が済んじまうだろ?」

「こいつと一緒に行けばいいじゃねーか」

「…ノリのクラス行くまでに昼休み終わりそうな気するんだけど」


 御幸と倉持が同時に私を見る。私は川上くんとご対面するからと、カバンからスタンドタイプの鏡や化粧ポーチを取り出していた。


「…行ってくるわ」

「おー」

「頼んだわよ倉持!よ、一番バッター!」


 御幸、たまには頼りになるじゃないの!

 川上くんが来る前に、私は今最大限出来るメイクをし終えると、そわそわと彼が来るのを待った。






 ガラ、と教室の扉が開くと、私の愛しの彼が白州くんと中へ入ってきた。当然川上くんの交友関係もチェックしている私は、白州くんが親友だってことも既に承知だ。

 ああ、彼の(何と言っていいか分からないヘアスタイルの)後ろから光が射してるように見えるわ…


「――何?御幸」

「おー、ワリぃな。今日の練習の事なんだけどよ……」


 御幸と話している川上くんを舐めまわすように眺める。
 こんな近くで見つめることができるなんて……御幸と倉持に散々愚痴った甲斐があったってもんね…
 ユニフォーム姿の彼が一番格好良いけど、制服もまた……


 見過ぎたのが悪かったのか、御幸との話が終わると川上くんは私の方を振り返った。


 目と目が合って、試合を観に行ってる時以上に心臓が跳ねる。

 あ、ヤバい。
 どうしたらいいの。

 いつもの様に、御幸と倉持と喋るみたいに、言葉がポンポンと出てくればいいのに。
 川上くんを前にすると、どうしてもいつもの自分じゃ無くなるの。


「――御幸から今聞いたんだけど…ピッチャーの球種、覚えたいって?」


 川上くんが私に話しかけてる、川上くんが私にぃ〜!!

 彼の後ろで御幸が親指を立てて合図してる。きっかけを作ってくれるなんて、今日の御幸は一体どうした。



「あ、う、ん。そうなの。いつも試合観に行ってて。今より詳しくなった方がもっと面白いかなー、って」

「うん、知ってる。いつも観に来てくれてるの。部内でもちょっと評判なんだよ?毎試合見てる子がいるって」

「えっ…」


 そんな話、御幸と倉持から聞いたこと無かった。川上くんは隣にいた白州くんに「な?」と同意を求めている。
 川上くんの言葉に頷く白州くん。彼も親友だからかイイ雰囲気を醸し出してるけど、私はやっぱり川上くんがいい。

 ここは良いとこ見せなきゃ!



「あ、さっき御幸と倉持にシンナーは教わったよ!!」

「…オイ、間違ってるぞ。重要なところが間違ってる」


 倉持が顔を歪めてツッコむ。私の言葉に御幸が腹を抱えて笑っていた。

 う、何だったっけ。ハズカシイ…


 下を向いて黙りこくると、川上くんがくす、と小さく笑ったのが聞こえた。
 川上くんがどんな顔してるのか見たくて、思わず顔を上げる。


「シンカー、だよ。他には?知りたい球種ある?」

「…あ、ストレートとか、スライダーは分かるけど…。細かい違いがちょっと分からない…」

「じゃあ―フォークは?」


 私の馬鹿な間違いも笑う事無く、丁寧に教えてようとしてくれている。

 優しいなあ……





 川上くんの素敵な美声で開かれている球種講座にうっとりとしていると、授業開始の予鈴が鳴った。


「あ、じゃあ俺達クラスに戻るね」

「あっ…川上くんありがとう!次の試合も川上くんの応援行くね!」

「――うん。また来てくれると俺も嬉しい」


 彼のはにかんだ笑顔に、私の心臓はきゅううううと締めつけられた。
 手を上げて去っていく彼を見届けながら、私は御幸と倉持にお礼を言った。


「ありがとぉ〜幸せ〜…」

「……おう。良かったな」

「じゃ授業始まるから戻るね――礼はするからまたヨロシク――」

「「何でだよ」」


 2人のツッコミも慣れきっている私は、幸せに浸りながら力が入らない身体をなんとか動かし、自分の席に戻った。






「…あのよー御幸」

「ん?」

「お前立木にはやたらと構うよな」

「だってあいつ面白えじゃん。見てて飽きねーし喋りやすいし」

「……俺の予想が間違いだといーんだけどよ」

「――その予想多分当たってるわー」

「!っ…マジかよ!いいのかよ…」

「――好きな奴には笑顔でいてほしーだろ?ノリを好きなあいつはカワイイ」

「……バカヤロー」




 まだ席に戻らない倉持が気になって御幸と倉持を見ると、御幸が私を見て柔らかく笑った。











2015.9.15





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