2015 卒業
高校生活は長いのかと思っていたら本当にあっという間だった。小中高と学校生活を過ごしたけれど高校が一番短く感じた。それだけ充実していたということなのか、先程貰った卒業証書が入った筒と、在校生がくれた小さい花束を抱えて3年間の日々を振り返っていた。
良い友達も出来たし、勉強も頑張った。4月から大学で新しい生活がスタートする。気候は日増しに暖かくなり、新しい事を始めるのにも心が躍る最高の季節だ。
高校での全ての行事を終えて外に出れば、同級生が皆思い思いに友達と写真を撮ったり、後輩と別れの挨拶をしたり。春に吹く強い風にあおられながら周りを見渡すと、遠くから集団でこちらに歩いてくる人達を見つけた。
青道高校野球部のメンバーだった。
うちの野球部は強豪で校内でも人気だった。卒業生の輪の中に入れば、みんな野球部の人達に声をかけていく。「大学でも頑張れよ!」とか「元気でね」とか「活躍期待してる」と色んな言葉が行き交っていた。
私は目の端でその光景を見つめながら、クラスの友達と写真を撮っていた。友達と笑い合っているけれど、心の中はある人のことでいっぱいだった。
野球部のキャプテンだった結城君は、私の秘かな憧れだった。みんなで応援に行った試合で見たバッターボックスでの彼の姿に目を奪われた。釘付けだった。それから教室でも、廊下でも、気がつけば彼を探していた。野球をしていないどんな彼でも、新しいことを発見するたび嬉しくてたまらなかった。
でも、それも今日で最後――
私の足は自然と野球部の集団へと向かっていた。
今日で、最後。
今日で、会えなくなるかもしれない。
この高校で、制服を着て話すことなんて、今日で最後なんだ。
「――結城君」
私の口から、自分でも驚くくらいすんなりとこの言葉が出た。私の呼びかけに気付いた彼は、こちらを振り返る。
「今までありがとう。3年になって初めて同じクラスになったけど、楽しかったよ」
私の言葉に彼は、微かな笑みを見せた。
「――今まで世話になったな。こちらこそありがとう」
「――え?私お世話したことあったっけ?」
「みんなで野球部の応援に来てくれたことがあっただろう。甲子園には行けなくて申し訳なかったが…感謝している」
私は泣きそうだった。卒業式よりも、教室でのホームルームよりも、今が一番卒業を実感した。この人の低くて重みのある言葉は、いつもいつも私の心にストンと落ちてくるんだ。ああ、もうこれでお別れなんだな、と。
「大学で野球続けるんでしょ?私は違う大学だけど…応援してる」
「ありがとう――お互い頑張ろうな」
「――うん」
お互い笑い合った後、私は結城君に元気でね、と告げて友達のところへ戻った。告白する気も無かったし、この先の付き合いを期待するわけでもなかった。
結城君とは高校でお別れだ、と自然と思っていた。
意外と悲しい涙も出ない。あるのは結城君と知り合えて良かった、という充実感だった。
「お互い頑張ろうな」という彼の何気ない言葉が、これからの私の新生活を支えるんだろう。
2015.3.24