2015 New Year


 …あれ?
 いつもと見える景色が違う。というより目線が高い?

 私は足元を見下ろした。間違いない、身長が伸びてる。…しかも靴がデカイ。私の足のサイズは23.5cmなのに……え??


 私の目に入ってきた足は明らかに男のものだ。しかも野球のスパイクを履いている。足下からゆっくりと自分の身体を確認すると、私は野球のユニフォームを身に纏い、胸はペタンコ、髪はショートでうっすら髭が生えている。顔を触るといつものハリは無く、少し脂ぎっていて明らかに10代の肌じゃない。


 え?え?えええええ!!?


 ちょっと待て、私は若さがウリの花の女子高生じゃなかったか。今自分の姿を目視と感触で確かめた感じでは、どうも私は中年男性になっているようだ。確かにうちの高校は強豪野球部がある青道高校だけど、何故に自分は高校生を通り越しておっさんになってしまってるのか。
 もう頭の中は真っ白、自分の現状に慌てる以前の問題だ。

 そんな私に前方の少し離れたところから1人の男が声をかける。


「では皆さんスタンバイお願いしまーす」


 …スタンバイ、って、何??

 声をかけた男が扉を開いた。明るい光が私の前を照らす。この先に向かえば良い展開が待ってるんじゃないかと錯覚するような、「このまま外に出ろ」との無言のお導きに感じ、私は歩いて扉に向かった。

 1歩外に踏み出すと、私の前に鮮やかなグラウンドとスタンドが広がっていた。


 …ここ、って東京ドーム、じゃない?


 ぽかん、としながらも辺りを見回してみると、どこかで見たことのあるグラウンドの所々に設置されたネットに四角いライン、「1BH」「2BH」など書かれた垂れ幕、ピッチャーマウンドにはモニター…


 あ、ああああああ!!!!


 これは私が毎回テレビの特番で楽しみにしている、リアル野球盤じゃないの!!!


 ということは、もしや…
 私の今の姿は…


 私は近くにいた女の人に鏡を持ってないか聞くと、すぐさま手鏡が手渡された。この姿で初めて発した声で、なんとなく察しはついてしまったけど。

 鏡を見ると、そこには私がテレビでよくお目にかかる某大御所有名芸能人の姿が。


 う、嘘でしょおおおおお!!
 いつもテレビで見てます…じゃなくて!今私がこの人になっちゃってる、ってことだよね!?
 何で??え?しかも私、これからこの「リアル野球盤」するの!??


 もう訳が分からない。しかも今からテレビ収録が始まるらしい。普段TVっ子の私のトーク力をここで発揮する時が来たらしい…って私大丈夫か。
 私はこのお方の前々からのファンなので喋りを似せるのはいけると思うけど…

 表情筋を動かさないように努め、死に物狂いで頭をフル回転させていると、私の前に対戦者のプロ野球選手達が挨拶に来た。
 私はそのメンバーの顔を見て益々表情が固まる。


 私の目の前に「JAPAN」のユニフォームを着て立っているのは、同じ高校の野球部である結城先輩、御幸、倉持、降谷くんといった面々だったからだ。


 な、何じゃこりゃあああああ!!

 しかも皆20代の風貌になっていて、学校で見る姿とは違い少し老けている。4人ともモテそうな感じに仕上がっており、降谷くんの大人の姿に今からツバつけようか心が揺らいだ。

 ていうか、お前らいつプロになったんじゃああ!!しかも全員日本代表ってどういうこっちゃあ!!!


 もう私の頭はいつ爆発してもおかしくない。つーか本当に何だこれは。つまり私は今から大人になったこいつらとリアル野球盤で対決する、って事なのか。

 …もう訳が分からないついでに、いっそこの状況を楽しんでやろうじゃないの。強豪として名を馳せているこいつらに、リアル野球盤でなら勝てるかもしれない。
 別に私は御幸達に恨みなどないけれど、「負かしてギャフンと言わしてやりてえ」という生粋のドS根性が私の闘志に火をつけた。


 おーし、やってやろうじゃないの!!



 ついにゲームが始まった。プロ野球選手じゃないこちら側はストレート(高速)、チェンジアップ、カーブ、スライダー、フォークをピッチングマシーンから投げる事ができる。プロよりも球種が2つ多い。
 最初のバッターは倉持か。…こいつ変化球とか弱そうよね。
 スライダー、フォークの後にストレートを選択したら案の定バットは空を切った。


 よっしゃー!倉持撃破ァ!!

 倉持の悔しそうな顔に内心でゲラゲラ笑いつつ、次のバッターを見据える。次は御幸か。御幸ってひねくれてるから逆に変化球とか強そう。倉持とは逆のパターンでいったほうがいいか。

 ストレートを織り交ぜ最後にチェンジアップーと組み立てた3球目、バットの音が響き内野にボールが飛んで行った。

 げ!と思って振り返ると、ボールはバウンドを繰り返した後、アウトのエリアで静かに止まった。

 危ない危ない。でもアウトだもんねー御幸ざまあ!!

 2連勝にその場を飛び跳ねたい気持ちで一杯だが、そうも言ってられない。次は青道の4番打者結城先輩だ。もう「漢!」って感じが滲み出てて簡単に打ち取らせてくれない雰囲気プンプンだ。
 でもこれはリアル野球盤。私みたいな女子高校生(今はおっさんだけど)でも勝てるところを見せてやる!

 流石に結城先輩は簡単に三振とはいかなかった。ファールで粘られる。これはゲームですよ、お遊びですよ、という感じは一切通用しない。燃えすぎでしょうが。

 5球目、結城先輩がフルスイングでボールを外野に運んだが、「FINE PLAY!」と書かれたエリアでボールが止まった。

 結城先輩、あざーっす!

 3アウトチェンジ。悔しさが滲み出ている結城先輩を横目に、今度はこちら側の攻撃だ。
 こっちには助っ人の元プロもいるしね!私が打てないまでも他の人が打つ!
 …と思っていたら本当にその通りになったので笑ってしまった。てか打ちたかった。攻撃でも奴らをビックリさせたかったのに!

 2点先取したこちらの攻撃の後、次は青道…じゃなかった日本代表の攻撃。降谷くんからだ。身体からオーラがほとばしっている。何だお前は。サイヤ人か。

 降谷くんは確か豪速球を投げるピッチャーだったよーな。豪速球には豪速球!!――て風にはしないわよ私は!!

 ストレートを混ぜつつ変化球で仕留める配球にしたら、打ち上げてアウトエリアに。


 後輩にも容赦しないわよ私はぁ!!



 その後も回は進み、点を取られはしたものの私達のチームの勝ちでゲームは終了した。


 …さーあ、この後は何をするか分かってるでしょうね、青道野球部一同?

 悔しそうな御幸達。プロの威厳があるため負けたままでは帰れない。そういった状況の時、このリアル野球盤では負けチームにはやることがある。

 ――そう、泣きの一回を頼むための土下座よ!土・下・座!!

 この時をゲームを始める前から待ってたのよ私は!!普段強いカッコいいと崇められているあんた達をひれ伏せるこの瞬間をぉ!!

 4人がグラウンドに膝をつき始める。私の身体はゾクゾクと快感が駆け巡る。ああ、ドSにはたまらないこの感じ。そして私に言うのよ、「お願いします」と!!


「「「「…泣きの一回、お願いします」」」」


 4人が額を地面につけ私に向かって声を発した。しかし結城先輩、土下座姿も様になってる…じゃなくてすごいわこの状況!!ああ、このままもう一声虐めてやりたいぃ!!スマホ!スマホで写メも撮りたい〜!





 ガタンッ!!!


 ハッ。何この物音、と思った私の目の前には見慣れた天井が。

 …え??

 手は布団を握り締めており、床には寝る前に枕元に置いていた携帯電話が落ちていた。

 その瞬間、私は全て悟った。
 …なんという夢オチ。


 つまりリアル野球盤も私がおっさんになった事も御幸達プロになったのも全部夢だったということか。私はほーっと安堵して、携帯を拾い上げると部屋のドアがノックされた。

 顔を出したのは母だった。


「おはよう、明けましておめでとう。すごい音したから様子見に来たんだけど」

「おはよう。…すごい夢見た。携帯床に落としただけだから大丈夫」

「あら、初夢?どんな夢だったの?」

「…ハード過ぎて説明できない」

「?まあいいわ、下降りてらっしゃい。お父さんがお年玉用意して待ってるわよ」

「…はーい」


 母はそれだけ言うと1階へ降りて行った。

 まさかまさかこれが初夢とは。今年1年は平穏無事に過ごせるのか。いつもは嬉しいお年玉も、今ばかりはすぐに取りにいく気にはなれなかった。








(50000HIT記念リクエストより:プロ野球選手になった青道野球部とドSヒロインのリアル野球盤パロ)

2015.1.1





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -