02


「澪──!ただいまー!」



 夕食の準備もとっくに終わった午後8時前、父より先に姉が帰って来た。ダイニングテーブルで学校の課題をしていた私は顔を上げる。


「お帰りー、凛ちゃん。ご飯出来てるよ」

「いつもありがと!じゃあ早速澪の美味しいご飯食べよっか!澪は食べたの?」

「まだ。感想とか聞きたいし」

「おっ!てことは今日は新メニュー!?」

「そんな大したもんじゃないけどね……温めておくから着替えてくれば?それかお風呂先にする?」

「流石私の可愛い妹!先ご飯にする!お腹すいたあ」



 凛ちゃんが帰ってくると一気に家が賑やかになる。自室に戻る姉を尻目に夕食をテーブルに並べ始めた。

 部屋着に着替えた凛ちゃんがリビングに顔を出す頃には、すぐに食事が開始できる状態にしておいた。



「「いただきまーす」」


 凛ちゃんが美味しい美味しいと言いながらご飯を口に運ぶ。にこにこしながら自分の作った料理を食べてくれるのはとても嬉しい。作り甲斐があるっていうものだ。
 凛ちゃんは食べるペースを落とさないまま私に「今日は何があった?」と聞いてくる。仕事が忙しく留守がちである母の代わりのように自分を気にかけてくれる姉の存在は、とってもありがたかった。


「特に何も……あ、スーパーで面白い子と知り合ったよ」


 煮付けたじゃがいもを口に頬張りながら答える。


「面白い?どんな?」

「同い年の野球少年。中学校のユニフォームじゃなかったから最初同じ中学って分からなかったんだ。縦縞の……袖に江戸川、って書いてたよ」


 ずっと箸が止まらなかった凛ちゃんが動きを止め、私を見る。


「じゃあその子リトルシニアのチームだよ。江戸川だったら涼(りょう)の後輩じゃん」

「え、涼くんて江戸川だったっけ」

「澪覚えてない?同じユニフォーム着てたよ、うちの弟は」

「……あ。はは…何で思い出さなかったんだろう私」


 そういえば涼くんの中学時代のユニフォームは縦縞だった。
 自分の記憶力に愕然とする。涼くんとは6つしか離れてないのに。


「……まあ、涼は高校の時のイメージが強いんでしょ。澪の中で」

「……そうかも」

「にしても澪が気になったのが男とはね!ちょっとどんな子か教えなさいよ、ホラホラ」


 凛ちゃんの目が怪しく光り出した、ような気がする。余計な事を考えているのは間違いない。


「えーっと、名前は御幸、くんで」

「ふんふん」

「眼鏡かけてて、家事は自分でやるんだって。それで……」

「ふーん。同じ境遇で意気投合しちゃったんだ」

「ち、違うよ!何で御幸が家事やってんのかは知らないもん」

「そんなムキになることないでしょ、……ん?御幸?」


 凛ちゃんが箸をくわえたまま考え込んでいる。


「どしたの?」

「なんか御幸って名前の会社をどこかで見た気がする。そんな遠くない距離」

「……そりゃ同じ中学なんだから家は近いと思うけど」

「お家が会社やってんじゃないの?その子」

「……ふーん、そっか。親が忙しいんだね」

「ほら、やっぱり澪と似てんじゃん。で、好きになっちゃったの?」


 にやー、と面白がった笑みを浮かべて凛ちゃんが私の顔を覗き込んだ。


「今日初めて話したのに好きになる訳ないでしょ!勘ぐり過ぎ!」


 そんな怒ること無いじゃん、と凛ちゃんが文句を言っているけど軽く受け流した。


 御幸とは今日友達になったばかりなんだから。





2014.9.18





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