壁ドン談義 (青道)
※名前変換なし
御幸世代ある朝、TVのニュース番組を見ていると「最近の流行り」を紹介するコーナーが始まった。
「近頃、『壁ドンをされたい』という女子が急増しております!」
アナウンサーの発言の後、壁ドンとはどういうものかという説明VTRが流れ、街での女子へのインタビュー映像に切り替わった。
『カッコイイ男の子にやってもらいたい』
『一度は体験してみたいかもー』
寮の食堂のTVを見ていた野球部の寮生は、皆箸を止めて画面に見入っている。
壁ドン特集が終わると、番組は天気予報に移った。
「…壁ドンの何がそんなにいいんだ?訳分かんねえ」
最初に言葉を発したのは倉持だった。理解できないといった様子で頭をかいている。
「まあ、男はされる側じゃないから分からなくて当然かもね」
そんな倉持に反応したのは同じく2年の渡辺だ。皆から「ナベ」と愛称で呼ばれている。
「なんかキュンキュンする、とか言ってたけど壁ドンされたらそんな気持ちになるのかな」
ボソッと呟かれた川上の言葉に、周りの人間が一斉に注目する。
「――じゃあ1回やってみた方が早えんじゃねえか?」
誰の発言か、と皆が声の主に振り向くと、口に出したのはなんと御幸だった。
御幸は立ち上がって、倉持の腕を掴むと壁際に身体を押しつけた。
「なんで俺なんだよ!!」
「まーまー。…じゃあゾノ、こっち来て」
「あ??」
その他のメンバーは静かにその様子を見守る。ゾノこと前園が御幸と倉持の傍に近寄ると、御幸は前園に「やって」と促した。
「お前言いだしっぺちゃうんかい!!お前やれや!」
前園の抗議もお構いなしに、御幸は倉持と前園を向かい合わせにすると、前園に壁に肘をつけるよう誘導した。
「「……」」
壁ドンの態勢になった倉持と前園は、「何故自分がこんな事をしているんだ」という反抗心からか自然と真正面の相手を睨みつけている。
「…なんかカツアゲの現場みたい」
「不良同士のメンチの切り合いにしか見えないな」
周りの率直な感想に、前園は「誰が不良じゃあ!!」と抗議した。
「じゃあゾノを変えるか。――山口〜」
何故か仕切っている御幸に呼ばれたのは、自分の筋肉を愛してやまない山口だった。
「俺は変わらねーのかよ!!」
倉持の叫びもそのままに、今度は山口が倉持の前に立ち壁ドン。
「「……」」
「…山口が倉持に二の腕の筋肉を見せびらかしてるみてえ」
「俺の上腕二頭筋すごいだろう〜?みたいな?」
周りから笑いが起き始めた。倉持の額に筋が浮き出ている。
「もーいいだろが!!」
倉持の言葉は誰にも受け止められることはなく、御幸は考える素振りをして呟いた。
「身長差があればいいと思ったんだけどな…される側が女子っぽい感じの方がいいのか」
御幸の言葉に一同固まる。それを聞いた倉持は「やっと解放されるぜ…」と安堵した。
誰が次に呼ばれるのか、不本意ながら皆御幸の言葉を待った。
「…じゃあノリ〜」
「「「やっぱり!!」」」
困った時のいじられ役、ノリこと川上が周りの視線を一斉に浴びて凍りついた。
「俺イヤだよ!」
「最初に言い出したのはノリだろ〜。ノリ自身が体験してみればいいじゃねえか」
御幸の言葉に返す言葉も無くなった川上は、渋々立ち上がって倉持がいた壁際に背中をあずける。
「ノリの相手は誰だよ?山口継続?」
倉持の言葉に、皆が『筋肉アピール壁ドン』を思い出し噴き出す。
「いや、ノリがされる側の場合は…そうだなー…」
御幸はひとしきり考えた後、ニッと笑ってある人物を指差した。
「ナベがいいんじゃねえ?」
「え!?僕!?」
渡辺は心底嫌だったが、周りが誰も止めてくれないので渋々川上の前に立った。
そして川上に対し壁ドン。
「「……」」
「ノリどうだー?」
御幸の問いに、川上はしばらく沈黙した後、口を開いた。
「…いや…悪くない…」
「「「ええええええー!??」」」
一同驚愕。川上の満更でもない答えに周りが慌て始めた。
「…ノリってそっちのシュミあったのか?」
「いや、ノーマルだろ」
「でもノリから好きな子の話とか聞いたことないぜ」
「男でもいけるのかノリは!」
俺は違うって!!と川上が大声で抗議した。それを聞いた御幸が川上に尋ねる。
「ナベにドキドキする、とかじゃないんだ?」
「うん…なんか逃げられない、追いつめられた感じがドキドキするっていうのかな…」
川上の言葉を聞いた後、皆各自の考察に入る。
「いや、でもノリも相手が山口やゾノだったら違ったと思うぜ。やっぱビジュアルだよ、顔がいい奴じゃないと成立しねえ」
「壁ドンする方がイケメンだったらいいってことか」
「でも身長差は必要だろ、する方が背低くて見上げる感じだったらカッコつかねえだろ」
意外と真面目に壁ドンについて語り合っている青道野球部。
皆の意見を聞いていた御幸がよし、と手を叩いた。
「じゃあ皆の意見をふまえて白州―木島でいこう!」
「御幸いつまで仕切ってんだよ!!」
「木島がされる側って違くねえ?されてもはあ?って感じだろ」
「でも白州が壁ドンする側ってありだな!」
「誰か小湊呼んでこいよ〜あいつくらいだろ絵になりそうなの」
「1年みんなグラウンド整備行ったぜー」
「じゃあ白州―川上の親友コンビでいいんじゃね?」
皆思い思いに喋るのでいよいよ収拾がつかなくなってきた。
そして勢いで白州が川上に壁ドンをしようかという時――
「…何やってんのあんた達」
食堂の扉を開けて呆然としている2年マネージャー、梅本の姿がそこにあった。
「「「……」」」
一同固まる。誰も動こうとしない。
「…今のは見なかったことにしとくから。練習始まるよ」
くるっと踵を返す梅本に、盛り上がっていた一同が一斉に弁解を始めた。
「いや違うんだこれは!!」
「おれはそっちのシュミは無い」
「元はといえばお前のせいだぞ御幸〜!!」
「最初に言い出したのはノリだぜー」
「じゃかあしい!!練習行くぞお前らあ!!」
そんなこんなで、今日も元気な青道野球部。
(50000HIT記念リクエストより:青道2年メンバーALLで壁ドン談義)
2015.2.10