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「じゃあここにうつ伏せになってもらおうかな」


 俺は立木のお母さん──沙耶さんに言われた通りにした。
 結局俺は、寮の自分の部屋で身体を診てもらう事になった。横になれてマッサージが受けれる場所なんて、青道野球部では寮の部屋くらいしかない。

 立木は食堂で終わるまで待つ、と沙耶さんに言っていた。



 沙耶さんは軽く俺の身体をマッサージしながら状態を見ていくようだ。流石プロ、たまに部の奴らにやってもらうマッサージより遥かに気持ちがいい。


「結構酷使してるわねー」


 沙耶さんは独り言のように呟きながら全身をチェックしている。


「怪我したの一昨日っすから……」

「病院では何て?」

「……脇腹の肉離れ、全治3週間だそうです」


 マッサージを受けていると、自分が思っていた以上に身体に疲労が溜まっているのが分かる。怪我していたのにも関わらずプレーを続けたのだから無理もない。


「……滅多にないから、澪からお願い事されるなんて。……それが自分の事じゃない、ってのは澪らしいけど」


 だから私頑張っちゃうよー、と背中の方で茶目っ気ある声が聞こえた。


「……立木って親に頼み事するのとか、少ないんすか」


 俺はふと気になったので聞いてみた。出てきた声が予想以上に低くて、自分でも驚いた。


「うん、ほとんど無いわね。澪から聞いてるかな。私もお父さんも仕事が忙しくて、姉兄も空手やら野球やらで留守がちだったりするから……。全部1人でやろうとする癖があるのよね、自分で解決しちゃうのよ」

「……」

「でも他人事には敏感でね。自分の事は後回しで人の世話焼くの。家族にはそうなんだけど……御幸くんにはどうだった?」


 沙耶さんは話をしながらも、手は休まず俺の身体の上で動いている。
 俺は立木と初めて会話した時のこと、それから仲良くなったこと、飯作ってもらったりしたこと……走馬灯のように一気に思い出していた。


「俺も色々、助けてもらって……あいつに救われたこと、結構あります」


 正直な気持ちが口からぽろっ、と出た。
 それと同時に心の中が温かいもので満たされる。


「……そう」


 沙耶さんは優しくそう呟くと、俺の身体に痛みが走った。思わず小さく呻くと、ここ痛い?と沙耶さんが聞く。俺の右脇腹付近を確認しながらも沙耶さんの手は休まらない。


「今御幸くんの話聞いてたら思い出しちゃった。あれは澪が中学……何年生だったかしらね、私が仕事から帰ったら澪が落ち込んでた時があったの」


 俺は軽く笑いながら話す沙耶さんを不思議に思いながらも、黙って続きを待った。


「凛も澪に学校で何かあったのか、って聞いててね。でも澪は首を横に振って『こんなこと大したことない』『なんてことない』って言うのよ。で、私も凛も理由を聞いたらさ」

「……聞いたら?」

「『いつも悩みや弱音なんて吐かずにひとりで頑張ってる人もいるのに、これ位の事自分でなんとかする!』って言ってー……。あの『ひとりで頑張ってる人』って、もしかして御幸くんの事言ってたのかな?」


 俺は一瞬呆然とした。立木からはそんな話、聞いた事も無かった。


「……あの話やっぱり御幸くんの事のような気がする。御幸くんて父子家庭なのよね?お父さんも仕事がお忙しい方だ、って澪から聞いてたから。……御幸くんが澪に救われてたって思ってるのと同じように、澪も御幸くんに助けられてたこと沢山あったと思うわ」


 だから御幸くんが気にすることはないわよ、と沙耶さんは言うと、マッサージは終了したようで俺は起き上がった。


「痛んだ箇所はチェックしたから、次はストレッチのやり方教えるね。痛めたからってずっと動かさないのも良くないのよ。軽めで1人で出来るものだから。じゃあー……」



 俺は沙耶さんにストレッチを教わってる間も、立木の事が頭をちらついていた。身体の痛みなんて忘れていて、今無性に立木の顔が見たかった。








2015.1.26




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