09
「もういいって倉持、1人で歩けるから」
「うるせー、黙って支えられてろ」
「そうや!さっきよりフラフラやないか!」
秋大決勝戦、俺達は薬師に勝ち優勝を決めた。怪我をおして出場した見返りか、身体が言う事をきかねえ。
でも優勝したから、もういいんだ。
両側を倉持とゾノに挟まれ、前を礼ちゃんが歩き、球場外に頼んであるタクシーで病院へと向かう。
礼ちゃんはともかく、まさかこの2人も一緒についてくるとは思わなかった。
もうすぐ球場出口という時、俺らの進路を塞ぐ様に誰かが立っている。
明らかに、少し離れた俺達を見ている。
「──誰や、あれ」
ゾノも自分達に用がありそうな「誰か」に気付いた。俺は鈍っている注意力を前方になんとか集中させる。
俺達を待っていたその人物は、被っていたキャップを取ると軽くお辞儀をした。
肩下くらいまで伸びた髪が揺れ、顔を上げた人を見て俺は固まった。
久し振り過ぎて、驚きを隠せない。
なんせ中学を卒業して以来だ。もう2年半も会ってなかったのだから。
「──立木──……」
俺が知った名前を呼ぶと、立木はにこっ、と笑った。
「久し振り。優勝、おめでとう」
立木は俺達の方に近づいて、礼ちゃんに優勝おめでとうございます、と言い頭を下げた。
俺以外の3人は、誰?という表情をしている。俺の反応で「御幸の知り合い」とは分かったようだけど。
「御幸くんの中学の時からの友達で、立木といいます」
立木はその疑問を解消するように簡潔に挨拶をした。倉持、ゾノ、礼ちゃんは「あざっす」「ありがとう」と各々立木に返事を返す。
その挨拶の後、立木は俺に視線を定めた。
「病院に行く前にひきとめてごめん。ちょっと聞きたい事があって。……その怪我、いつから?」
え、と俺は面食らった。立木は俺と久々に会ったにも関わらず淡々と喋る。そして何より立木の雰囲気が少し怖い。得体のしれない威圧感を感じる。暗に「早く言え」と脅迫されている気分だ。
というか久し振りに会ったのに和やかな空気じゃないのは何でだ。
「あ、昨日の準決勝のクロスプレーで」
「どこ痛めたの?」
「右脇腹……」
「……ふーん……」
立木はそう言うとしばらく考え込んでいる。俺は軽く冷や汗が流れた。これは明らかに怪我のせいじゃない。何なんだ、この怒られているような感覚は。
「分かった、ありがとう」
立木は俺以外の3人に「お時間とらせてしまってすみませんでした」と頭を下げた。3人とも訳が分からないようでぽかーん、としている。いや、俺にも分からねえから。
立木は疑問符だらけの俺に向き直ると「じゃ」と手を上げる。
「え、ちょっと待──」
「ちゃんと病院で診てもらいなよ、野球バカ男」
俺は開いた口が塞がらない。礼ちゃん達に失礼します、と深くお辞儀をした後立木は球場の方に走って戻っていった。
倉持は立木の野球バカ発言に大笑いしている。
「……今日の御幸くんを見たらそう思われても仕方ないかもね」
礼ちゃんはそう呟くと再び出口に向かって歩き始めたので俺達も続く。俺はバツが悪くなって倉持に身体を預けた。
「……そーだよ。だから俺、キャプテンに向いてねーんだ」
俺の発言を聞いたゾノと倉持が慌てている。立木が何で俺に会いに来たのかは分からねーけど、医者にきちんと診てもらうべく俺はタクシーに乗り込んだ。
2015.1.22