08


 私の願掛けが効いたのかは分からないが、青道は秋大決勝進出を決めた。


 天気にも恵まれた10月24日の午後、私は試合開始時刻より早めに球場を訪れた。早めに着いたのにも関わらず、観客の数は多い。私はなるべく前の方の席を確保すると一息ついた。
 私が座っている席の反対側に、青道の応援団や制服を着た高校生が多く集まっている。青道と、稲実の制服っぽい。あっちに座らなくて良かった。鳴の姿は見えないけれど、見つかったらたまったものじゃない。散々愚痴を聞かされそうな気がする……。

 私はかぶっていた帽子を深くかぶり直した。




 座ってしばらくすると、グラウンドで試合前ノックが始まった。薬師高校の後青道のノック。御幸を見るのは夏の決勝戦振りだ。

 夏の時とは違い、今回は完全に青道の応援だ。自分が座っている位置からして周りは薬師の応援が多いから、密かに御幸に頑張れよー、と念を送る。届いてはないだろうけど。


 御幸、勝てば甲子園だよ。


 鳴だけじゃない。御幸だって、行けるんだから。



 球場に、試合開始の合図が響き渡った。








 試合は青道の先制で展開していった。しかし2回、3回と進んでいくにつれ、私には不穏な違和感が拭えない。それは──御幸自身にだ。

 回を重ねる毎に御幸の様子が変だと感じるようになった。でも私の周りで青道のキャプテンの不調を気に留める人はいない。不調は「打てていない」という意味ではない。


 ──怪我、してる──?


 観客席のスタンドからでは遠すぎて、はっきりとは分からない。でも御幸の打席の時に感じてしまった違和感。スイングの際上手く身体を使えていない……気がする。実際に塁に出れていない。2打席共凡退している。


 薬師のピッチャーも凄いけど、それだけが理由で打ててない訳じゃ、ない?


 私は目を閉じて、夏の決勝戦での御幸のバッティングを思い出していた。

 あの時とはやっぱり何か、違う気がする。




 5回表の打席でも、御幸のバットから音は聞かれなかった。私はその時確信してしまった。

 ──御幸はどこか痛めている。



 5回裏、薬師の盗塁も御幸の送球がそれて阻止出来なかった。7回表もサードゴロ。バッティングは振るわないけれど、逆に守備でのリードは冴えわたり薬師のクリーンナップ2人から三振をもらった。


 凄い……。


 御幸ももちろんだけど、そのリードに応えたピッチャーの沢村くんも凄い。

 そして最終回青道の攻撃、御幸のプレーが鬼気迫るものへと変わっていく。


 絶対にどこか怪我をしているはずなのに、それを感じさせない粘るバッティングに盗塁、スライディング。




 御幸がこんなにがむしゃらなのは初めて見た。

 野球が好きで、ずっとプレーしていたい──。御幸の全身が、そう言ってる気がした。


 あまりにも「野球少年」という言葉がピッタリで、涙が出てくる。






 勝って欲しい。







 心の中で願い続けた想いは、叶うこととなった。












 御幸は勝利が決まった瞬間でも、チームメイトがいるピッチャーマウンドに駆け寄ることは出来なかった。試合終了の整列の時には、チームメイト達が心配そうに御幸を見守っている。



 私はその時、心に決めた。





 閉会式が終わると私はすぐに席を立った。あんなに傍目から分かるような怪我、御幸は即刻病院行きだろう。青道の選手達の挨拶もあるだろうけど、私は球場の出口に向かった。


 病院に向かうのならここを通るはず──。私は出口前に着くと、柱に寄り掛かってある人物をじっと待った。




 どのくらいの時間が経ったかは分からない。




 私の目の前に、チームメイトに身体を支えられながら歩いている御幸が姿を現した。







2015.1.20

 
 


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