07


 夏の甲子園大会も終わり、2学期も始まって夏の気配が過ぎ去った10月初め。響子ちゃんが凛ちゃんを訪ねて家に遊びに来た。私が頼んでおいた高校野球秋季大会のパンフレットを持参して。そのパンフレットには一次予選の試合結果と本大会日程表、そして出場校の選手名簿が載っている。


「ありがとう、響子ちゃん」


 私は受け取ったパンフレットをパラパラとめくり、自分が知りたかった情報を探す。



 ──やっぱり。


 鳴のいる稲実と、御幸のいる青道の選手名簿を見つけると、私は心の中で呟いた。名簿には各校のレギュラーの一覧と、学年、ポジション等のデータが記載されている。

 御幸は予想通り、青道の主将になっていた。


「……鳴は、キャプテンじゃないんだね」


 鳴の名前には主将を示すマークは無い。私は苦笑いをしながら響子ちゃん、凛ちゃんと顔を見合わせる。


「「「……だろうね」」」


 見事に3人同時に言う事がハモった。


「あのワガママ鳴には無理でしょ。キャプテンは試合以外でもチームを引っ張っていかなきゃならないからね」

「……親友から言われると返す言葉も無い……。甲子園で準優勝して新チームへの移行が一番遅かった分、3年生が抜けた穴は大きいって稲実内でも言われてるから。チームの牽引、って意味でね」


 響子ちゃんの言葉に私は頷いた。鳴が我儘を言ってられたのは、それを受け止める人達がいたからだ。後輩を引っ張る立場になった今はそうもいかない筈。



 凛ちゃんと響子ちゃんが2人で話し始めたので、私は手元のパンフレットに再び目を通す。名簿の次にチェックするのは本大会の日程だ。

 青道は……初っ端1回戦が帝東か。順調に勝ち進んでも3回戦で鳴のいる稲実とあたる。

 きっ……厳しー。


 ……3回戦、観に行こうかな。御幸も鳴も勝ち進むかは分からないけれど、夏の決勝戦以来の稲実―青道は興味ある。

 私は日程をメモすると、響子ちゃんにお礼を言ってパンフレットを返した。










 その後、鳴が秋大2回戦で負けた、と響子ちゃんから聞いた。やはり3年生の存在は大きかったようで、響子ちゃんが言うには気合いが空回りしていた……とのことだった。

 鳴の事は勿論びっくりしたが、その直後私の頭の中には御幸が浮かんだ。稲実が負けたとなると、青道の優勝のチャンスが確実に上がる。

 私はスケジュール帳に挟んでいた日程表のメモを取り出した。


 ──これは、私なりの願掛け。


 3回戦を観戦する予定にしていたが、それは止めて決勝戦を観に行くことにした。



 青道が、──御幸が、絶対に決勝まで勝ち上がってくることを信じて。







2015.1.16




×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -