02
授業の合間の休み時間。澪はトイレに行く、って教室を出て行った。私達は「一緒にトイレ行こー」なんてガラじゃない。行きたい時に各々行く。何で女子って連れ立ってトイレ行くの好きなんだろうか、理解に苦しむ。
澪が出て行った直後、私の隣の席にクラスの男子がこちらを向いて急いで座った。
何。
「なあ、早川。ちょっと今いい?」
「うん、何」
「あのさあ、立木さんて好きな人いんの?」
「……あんたも澪に興味あんの」
「いやいや!違ぇーよ!……俺サッカー部なんだよ。立木さんがさ、俺の先輩フッたの知ってるだろ?」
「……あー……、そゆことねー……」
無駄に人目をひく親友を持つと困るもんだ。まず目立つ「友達」のせいで私が目立たない。私だってそんなに顔も性格も悪くない、と思うんだけど。……まあそれは置いといて。
「『彼氏がいないのに何で俺が振られたのか分からない』とか言ってんの、あの先輩は」
「!!……あー、察しがいいな」
「澪が他に好きな男がいるのか探ってこい──とか言われたんだ。……意外と諦め悪いのね」
別れたら次、とすぐ他の女に乗りかえる先輩って聞いてたからもう次の女にいってるかと思ったのに。振られたから尚更気になる、というやつか。
「……その先輩から振られた理由とか聞いてんの?」
隣の男子はコクリ、と頷いた。……こいつ名前何だっけ。
「……澪は振る時に適当な理由付けて相手を振ったりしないよ。嘘なんてついてない。そんなに薄情な奴じゃないからね」
「……そうか。サンキュー。……好きな奴はいない、でいいんだな?」
「……うん。てか、何で私に聞くの」
「俺が本人にこんな事聞ける訳ないだろ!聞いたら絶対怪しまれるに決まってるし!」
話が一段落ついたところで予鈴が鳴った。サッカー部の男はありがとな、と言って自分の席に戻っていった。変な先輩持つと大変だねえ、可哀想に。
澪もトイレから戻って席に着いた。澪の席は前の方で、私は後ろから2番目。次の授業の教科書やらを机から引っ張り出しながら、私は澪の後姿を見つめた。
澪とは中2の時に仲良くなった。女子のわりにとてもサッパリした性格が好感を持てた。私と合う!と。
中学の時から結構モテてるのに男っ気が無い。好きな人の話も聞かないし本人自体恋愛話に興味が無いようで話にものってこないのだ。恋バナを澪とする時は正直つまらない。
──澪に好きな人──
ずっと友達の私から見ても、いないと思う。もし万が一、私に隠れて澪に好きな人がいるとしたら──思い当たる男は1人しかいない。
御幸一也、だ。
中学時代、澪と一番仲が良い、と思う男子が御幸だった。私から見たら「何であんたら付き合ってないの」と突っ込みたくなる程だった。でも澪は友達だ、という。クラスの男子から、御幸も澪の事を友達だと言ってる、と聞いたことがあった。いやいやいや、あり得ないでしょ。
私の持論からして、男女間に友情なんぞ成立しない!
今まで聞いてきた恋バナを元にしても、友達だと言ってても大抵男か女、どちらかが密かに好意を持ってるという図式ばかりだった。それなのに澪と御幸は。
……。
この事を考え出すと、少しずつイライラし始めてくる。
あの2人、傍からみてたらすっっっごくイライラするのよ!!
結局のところどうなってんのあの2人は。
一回気になり始めたら確かめないと落ち着かない、私の悪い癖が出始めた。お互い「友達」だ、って言ってるからそれで結論が出てるのかもしれないけど。
私の勘が、そうじゃない、って言ってる。
澪は高校入ってからも彼氏はいない。
……あいつは、御幸は、どうなの。
……気になってきた〜、くっそー!!
何で私が好きでもない御幸の事で頭をいっぱいにしなきゃならないのか。
──腹立つついでに確かめてやろーじゃないの!
御幸、青道に入ったって言ってたなと澪の言葉を思い出しながら、悪い笑みを浮かべていた事に私は気付いていなかった。
2014.11.17