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「立木さん、俺と付き合わない?」


 高校に入学してしばらくたった頃、私はクラスの男子伝いに1コ上の男の先輩から呼び出された。下校時の特別教室棟の廊下は人気も少なく、込み入った話をするには格好の場所だ。私を待っていたその先輩とは、今初めて顔を合わせた。


「……ごめんなさい。付き合えません」


 ある程度予測がついていたのか、先輩は慌てる素振りもなく話を続ける。


「まず付き合ってみてさ、それから俺の事知ってくれればいーから。ね?」

「……家庭の事情で、色々と忙しいので会う時間とか作れないんです」

「えぇ〜……それでもいいからさー」

「先輩が望むような事は出来ないと思います。それに好きでもないのに付き合えません。すみません、失礼します」


 深く頭を下げて、先輩には申し訳ないがとっとと話を終わらせて来た道を戻る。合いそうにない、と思った。私は直感というのは結構当たるものだと思っている。先輩の望み通りに彼氏彼女の関係になったとしても早々に別れる感じがした。


 どっと疲れが押し寄せる。高校生になったからといって、今まで恋愛沙汰が苦手だった私が急にスイッチを切り替えられる筈もなかった。








「澪、噂になってるよー、サッカー部のモテる先輩フッたってー」


 私が名前も知らない先輩の告白を断った翌日。友達の菜々美から、おはようの挨拶の後開口一番に言われた。
 菜々美とは偶然にも志望校が一緒で、高校でも同じクラスになった。友達だからと示しあわせて高校を選んだ訳じゃない。私は相変わらず家の仕事があるし、通学になるべく時間はかけたくない。私も菜々美も、家から比較的近いことを優先したら同じ進学先となったのだった。


「……好きでもない人と付き合えないよ」

「とりあえず付き合ってみたら、進展するかもしれないじゃん」

「それで好きになれなかったら相手に悪いでしょ」

「そーんなお堅く考えないでいいと思うけどな。まーあの先輩、女が切れないらしいから、断って正解かもね。……澪は自分から好きにならないと付き合えないタイプだ」

「……そーかもねぇ……」


 気のない返事ー、と菜々美がぼやいているが、自分に彼氏がいて放課後に男の子とイチャついているところなんて全く想像出来ない。自分でもポカーンとしてしまう。当分私には無縁の話だと妙に納得してしまった。


 ふと教室から窓の外を眺めると、空には一面の青。今日は久しぶりの快晴だ。空の青と、その下に広がる校庭の景色に私はある人を思い出していた。


 御幸、元気でやってるかな。


 高校に入学してから御幸とは一度も連絡をとっていない。お互い携帯の番号やアドレスは知っているけど、高校生になってから御幸から連絡が来たことはない。青道の寮で携帯が使えるのかは知らないが、御幸の邪魔になるのは嫌なので、こちらからかけることも無かった。「便りがないのがいい便り」と、不安に思うことも無い。

 学校、部活、寮でもライバル達がひしめき合う環境は大変だと思う。でも御幸なら、飄々とやり過ごすんだろうな。その姿を想像すると、ふっと笑いたくなった。


 少し距離が遠くなった友達に、心の中でエールを贈って意識を教室の中に戻した。






2014.11.11



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