07


 鳴が家に来た日の翌週、下校するため昇降口で靴を履きかえようとしていたら、ばったり御幸に出くわした。


「あ御幸、今帰り?」

「おー。なんか久し振りな感じすんな、話すの」

「そういえばそうだね。今日練習は?」

「……今日は無し。途中まで一緒に帰らねーか?」


 御幸と友達になってからスーパーから一緒に帰ることはあっても、学校から一緒に帰ることは今まで一度も無かったので一瞬面食らった。


「うん、帰ろっか」


 断る理由も無いし、2人で並んで歩き始める。
 御幸と話すのは、本当に久々だった。


「……何でこんな久し振りなんだろうね」


 そんなに受験に追われてたっけ、と首を傾げていると御幸が口を開く。


「シニアも引退してから試合も無くなったしな。立木に飯作ってもらうことも無くなったもんな」

「あ、そっか……私がご飯持ってくの、試合の日だけだったもんね」


 不思議と意識が中1の頃にさかのぼる。ひょんな事で出会って、友達になって。──もう3年の秋か、あっという間だった気がする。


「──御幸って、高校どこにするか決めたの?」


 そう言えば聞いてなかったな、と思い尋ねると、ずっと前を向いて喋っていた御幸が私に顔を向けた。


「──青道。ずっと誘われてたんだ」

「へー、青道かあ。強豪だよね。あ、前にナイスバディのお姉さんにスカウトされたとか言ってたっけ」

「はは、よく覚えてんな。そーそー、そのお姉さんが青道の副部長なの」


 青道。家から通うにはちょっと遠い。という事は──。


「……じゃあ、寮に入るの?」

「──ああ。ますます野球漬けの日々だなー」

「……おじさん、寂しくなっちゃうね」


 私は御幸のお父さんを思い出していた。いくら仕事が忙しくても、実際家から息子が離れるとなると寂しくなるに決まってる。御幸が寮に入っても、たまーにおじさんにご飯持っていこうかな、そう思った。


「……ずっと礼を言っとかなきゃな、って思ってたんだ」


 考え込んでいたら急に御幸の声が低くなった。不思議に思い顔を上げると、御幸は神妙な顔をして私を見つめていた。


「……礼?」

「……中学で立木と友達になってさ、俺結構救われてた気がする。飯も作ってもらったし、すげー美味かった」


 いつもの飄々とした御幸じゃない、別の男の子みたいな感じで話すから少しだけ緊張した。


「……いつも美味しい、って言ってくれてたよ。それに友達が困ってたりしたら助けるのは当然じゃん」


 私はふっ、と笑った。いつも御幸が見せてくれた、不敵な笑みで。
 私の顔を見た御幸は、少しだけ表情が緩んだ。


「……今までありがとな。今度いつ言えるタイミングがあるか分かんねーから、言っとこうと思って」

「ご丁寧にどーも。……私も御幸と友達になれて良かった。話してても全然飽きないし、楽しかったよ」


 お互い顔を見合せてにっ、と笑った。進む道が違っても、卒業して再会した時はまたこうやって笑い合える気がする。

 御幸のテンションもいつも通りに戻って、前に向き直った。


「そーいや立木は高校どこにすんの?」

「……無事受かってから言いマス」

「ハハ!まーお互い連絡先知ってっからな。合格したら教えてチョーダイ」

「……はーい」














 そして冬、私達は別々の高校に合格した。春から、新しい生活が始まる。








2014.11.6




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