06


 私と御幸はとうとう中学最後の年を迎えた。私達の仲は相変わらずで、つかず離れずといった感じをずっと保っていた。3年生にもなると皆受験に気を取られ、私達の仲を追及してくる子はいなくなった。



「ただいまー……あれ」


 初秋、休日に行われた校外模試から帰ってきたら、玄関に見慣れない靴が並んでいる。男物と女物、それぞれ1足ずつ。女物は綺麗なパンプスで、男物はスニーカーだった。今日は凛ちゃんが家にいるから、凛ちゃんの友達かな。そのまま自分の部屋に行こうかとも思ったが、とりあえず挨拶しておこうと思いリビングに向かい扉を開けた。


「あー、澪!お帰りー」


 扉側を向いていた凛ちゃんが声を上げると、私に背を向けて座っていた来客者2名が同時に振り向いた。凛ちゃんの友達は、私も知っている人だった。


「澪、久し振り〜。模試だったんでしょ、お疲れ!」

「澪!遅せーよ待ちくたびれた〜」


「……いらっしゃーい、響子ちゃん、……鳴も」



 にっこりと私に笑いかけてくれた美人は凛ちゃんの高校の時からの友人――響子ちゃんで、隣に座ってブーブー煩いのが弟の鳴だ。偶然にも私と同い年。鳴も涼くんや御幸と同じくシニアで野球をやっていて、東京一のピッチャーだと評判らしい。響子ちゃんに紹介されて鳴と知り合ったが、ピッチャーとして頭角を現すにつれてどんどん態度がでかくなっている。


 凛ちゃんに促されて、私もリビングのソファに腰を下ろした。


「一般入試は大変だねえ〜」


 余裕綽々の顔でへへっと笑う鳴を軽く睨みつける。


「……腹立つ。推薦組はいいですね、高校どこにするかもう決めたんだ?」

「うん、稲実!!あそこの監督は甲子園に何回も出場してるしね。俺は高校で全国制覇目指してるから!」

「ふーん」

「澪は?澪も稲実にしよーぜ!そんで俺を応援しろ!」

「何でよ。第一遠いし、通いづらい。鳴は寮生活になるんでしょ」


 鳴の自己中ぶりに溜息をつくと、響子ちゃんが笑いながら鳴の肩をバシンと叩いた。


「あ、そーだ、聞いてよ澪。こいつ、シニアの有力選手に声掛けて皆稲実に入れようとしてんのよ」

「いーじゃんよ!声掛けたのは俺が気に入ってる奴ら!最強チーム作って全国制覇、完璧じゃん」


 とりあえず話の流れ上聞いておいた方がいいかと、凛ちゃんが持ってきてくれた飲み物に口をつけながら鳴に尋ねた。


「……で、そのスカウトは上手くいったの」


 淡々とした私とは裏腹に、鳴はうっ、と動揺した態度を見せる。


「──1人断られたけど!あとの4人は稲実入り!十分十分!」

「ほーら、世の中あんたの思い通りに動かないのよ!これでちょっとは分かったか鳴!」


 高らかに馬鹿にしたように笑う響子ちゃんに、鳴がうるせーな!とくってかかる。西東京は激戦区だから、上手い選手が各高校に散らばるのは当然だ。でも稲実は毎年強いから鳴も実力は思う存分発揮できるだろう。

 散々姉弟で罵り合った後、鳴は何かを思いついたように私に向き直った。


「あ、──澪は高校…青道、じゃねーよな?」

「へ?青道?──違うけど」

「……なら良し!大したことじゃないから気にしなくていーから!」


 小声で喋りかけてきたと思ったら、鳴はまたいつものテンションに戻った。忙しい奴だ。ワガママだし。



「──ま、鳴も高校でも頑張って。私、模試の自己採点するから部屋行くね。響子ちゃん、申し訳ないけどこれで失礼します」


 響子ちゃんに軽く頭を下げると、いーよ、忙しいのにごめんねー頑張れよーと声を掛けてくれた。立ち上がって使ったコップをキッチンに持っていくと、背後で「俺もずっと帰り待ってたんだぞ何か言えやコラー」と鳴が文句を垂れていたが、それには答えずに軽く手を振って聞き流しておいた。








2014.10.28


 


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