44 序盤


 ミックス(男女混合)バスケは大会ごとにルールが異なっている。玲奈が参加している今大会は、通常ルールに加えて
 ・ボールは7号球を使用する。
 ・コートに女性を2人以上いれること。
 ・女性の得点は通常の得点+1とする。
と、性差のハンデを埋めるべく特別なルールが設けられている。


「1本!」


 玲奈が攻撃の起点となるPG(ポイントガード)の位置でボールをキープしながら声を上げた。ミックスバスケでは男女のマッチアップになることを考慮しなければならない。どのポジションに女性を配置するか、一般の試合よりも相手チームのメンバーのプレイをよく把握した上で、マッチアップする必要がある。
 玲奈のチームは、玲奈と絵梨の2人が女子メンバーとしてコートに立っている。

 玲奈は男性とのマッチアップだ。身長差、パワーの差は当然ある。ボールを取られないようにドリブルをするのも、女性相手以上に気が抜けない。


「玲奈ちゃんの相手、身長差結構あるな」

「……こういう時の練習はいくらでもしてある。女子の中でも背が高い方じゃないからな、玲奈は」


 諸星の呟きに玲奈の兄啓介は、隣にいる弟の聡司を親指で指しながら言い切った。これまでに兄達相手にいくらでも1ON1の練習をしたのだろう、隣に座っている牧達は兄弟の雰囲気から見てとれた。

 玲奈がひとまずインサイドにボールを入れる。相手チームの女子は、絵梨とマッチアップしているSG(シューティングガード)と、SF(スモールフォワード)の位置にいる女子だ。各々がどういう動きをするのか、確認する。
 インサイドにボールが入ると男のみのボディコンタクトが始まった。ゴール下のポジション取りを制して、玲奈のチームが先制した。


「ナイッシュー!」


 シュートが決まるとすぐにディフェンスに戻る。玲奈は相手チームのボールハンドリングの様子をうかがう。
 玲奈と対峙しているPGは、ボールをSGに回した。玲奈チームに対して外でメンバー全員がボールを触り回していく。途切れることのないパスワーク。
 PGにボールが戻ったと思いきや、外45度から玲奈のディフェンスがついたままジャンプシュートを放った。


「……!」


 玲奈がジャンプして手を伸ばしてもボールに届かない。ブロックもなく綺麗な軌道を描いたボールは、ゴールに吸い込まれるように入った。


「ナイッシュー!!」

「いいぞー!」


 勢いのある掛け声が相手チームのベンチから上がる。男対女のマッチアップの差が目に見えた形となった。


「──やっぱりジャンプしてもボールに触れないな」

「相手そんなに高く飛んでないけどね」


 河田と諸星が冷静に状況を見ながら話しているが、牧は黙ったままだった。
 牧の隣にいる玲奈の兄達も動揺することなくコートを見つめていたが、啓介が聡司に向かって声を控えめに、苦笑したまま尋ねた。


「──玲奈が試合で大人しかったことがあったか?」

「……ないねぇ。牧は?」


 どう思う? と無言で聞かれた牧は、啓介以上の不敵な笑みで彼女の兄達に返答した。

 玲奈を昔から知っている者は、最後までこのままの展開になると誰も思っていない。  


「よーし、ディフェンス!!」


 玲奈の強い声掛けに、コートのメンバーも声を上げる。
 玲奈自身もこのようなシーンは想定済みだ。いかに男女差を利用し、得点を上げていくか。
 試合はまだ始まったばかりだ。









2019.8.15



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