2017 winter(山王・河田)


「今日は何の日か知ってるか」


 教室で腕を組みながら席に座っている河田雅史に、同じクラスのバスケ部員は苦笑いで答える。


「……バレンタインだな」

「何故俺に誰もチョコを渡してこないんだ女子は」

「……なかなか勇気を出して渡せない、とか?」


 周りは河田の機嫌を損ねないように答える。部の後輩もいない教室で河田が機嫌を悪くすると、自分達がプロレス技をかけられてしまうからだ。

 決して「モテないから」なんて言葉、思ってても口に出せやしない。


「沢北亡き後バスケ部の人気No.1は俺だろう」

「沢北殺しちゃだめだろ。留学してるだけだし」

「今山王にいない奴は除外だ」


 河田が廊下を見ると、いつもよりも女子が騒いでいる気がする。どことなく浮足立っている今日の雰囲気が、男子にあらぬ期待をさせてしまうようだ。

 河田が視線を教室に戻そうか、という時。


「あー松本くん!これ受け取って!」
「松本くん私もあげる!」


 『沢北がいなければエースをはれた男』と全国的にも有名な河田と同学年の松本が、女子に声をかけられチョコを渡されている。松本は「え、え」と挙動不審だ。
 それを見た河田がゆっくりと立ち上がった。

 先程まで河田と一緒にいたバスケ部2人は、その光景を呆然と見つめた。


「……まあ沢北がいなかったらバスケ部で一番モテるのは松本だろ」

「松本、今日完全に河田のターゲットにされるぞ」


 この後のことを想像し、2人は冷や汗を流した。







(バレンタイン当日・河田)
2017.2.14






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