05 静
目を開けると自分がベットに寝かされていたことに気付いた。目の前に真っ白な天井が見える。シーツも布団も全て白で、玲奈は此処が何処なのか分からなくなった。
最後の記憶は体育館で……あぁ、試合が終わって足がもう限界で倒れたんだったと思い出す。それ以降の記憶が無いことから、意識を失ってたんだな、と気付く。
それにしても此処はどこだろう。体育館の医務室にしては綺麗すぎる。部屋を見渡してみて、ようやく此処が病院だと分かった。
とりあえず起きよう――そう思い、身体を起こそうとした時、気付いた。
――左足が動かない。
腕に力を入れて、何とか身体を起こし、枕に上半身をあずけた。ひとつ溜息をつく。
やっぱりこうなってしまったか、と思った。1年位前から足の調子は良くなかった。それ以前からも足に違和感は感じていたが、頑張ってトレーニングすれば大丈夫だと、自分の鍛え方がまだまだなんだと言い聞かせていた。
でも玲奈は後悔はしていなかった。決勝戦ではこれでバスケが出来るのは最後になってもいいとまで思ってプレイした。
部屋の扉が開く音がした。一番上の兄の啓介だった。
「玲奈。気付いたか」
「……啓兄」
「体調はどうだ?」
「……ん、大丈夫」
玲奈の言葉を聞いた後、啓介は玲奈の側に椅子を置き、腰を下ろす。
「――手術、したから」
啓介の言葉を聞いて、玲奈はうん、とうなずく。
「母さんも来てる。周平と聡司もいたけど帰らせた。親父は仕事で来れなかったけど、状況は伝えてあるから。今母さん呼んでくるから、来たら、先生と足の状態について聞けよ」
「……うん。啓兄、遅くまでついててくれてありがと」
「いいよ。ただもう東京戻らないと悪いから俺は帰るな。明日から合宿だから」
「うん、ごめんね」
「……こうなる前に対処しとかなかった俺にも責任あるからな。今日はゆっくり休め。じゃあな」
啓介は立ち上がると、部屋を後にした。出ていく前に「優勝おめでとう」と言い残していったのは、彼らしかった。
その後すぐ母と主治医が来た。足は自分が思っていた以上に悪かったようで、「よくこんな足で試合できたもんだ」と言われてしまった。医師から普通に歩けるようになるまでどの位かかるか分からないと言われた。バスケが出来るのなんて尚のこと。
不思議と気落ちはしていなかった。覚悟していたせいもあるだろう。まずは歩けるようになる―それまで目の前の出来る事をひとつひとつやっていくしかない―玲奈は心の中で強く思った。
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インターハイから2ケ月近く経った日曜日―海南男子バスケ部は濃い練習の真っ只中だった。
「よーーっし、次ランニングシュート!!」
「うーーーっす!!」
インターハイが終わっても、まだ3年生が多く残っているせいか、体育館内は熱気と気迫に溢れている。
その時、体育館の正面玄関が開き、誰かが中に入ってきた。
「……え!?あれって……」
清田の驚きに満ちた声が上がる。その声にびっくりしたのか、部員のひとりが投げたボールが、入ってきた人めがけて飛んでいった。
「あ、危なーい!!」
清田が叫ぶ。叫び声がした方に目を向けた来訪者は、ボールが向かってくるのに気付くと、左手を右手前方にクロスさせ、ボールを取った。少し身体がふらつく。
部員一同ホッとし、ボールを投げた当事者は「すみませんしたー!!」と頭を下げた。
そして来訪者に注目し、少しざわつき始める。
キャプテンである牧が来訪者に駆け寄った。間近で顔を合わせ、驚きを含んだ声で話しかけた。
「……玲奈ちゃん??」
「あ、牧さん。こんにちは」
体育館に入ってきたのは玲奈だった。
2011.10.25