32 違和 3


「……河田は大きい怪我したことあるか」

「──あ?無いな。常に己と向き合い身体を鍛え続けているからな」

「……そうか」

「どうした牧」


 「いや……」と牧が言葉を濁した後、隣にいた諸星が箸を止めて牧の顔を見た。


「──玲奈ちゃんのことか?」


 見事考えていたことを言い当てられた牧は小さく苦笑した。大学内の広い食堂で牧、河田、諸星の3人は昼食を取っていた。牧と諸星は手を動かすのを止めているが、河田は口やら手が動きっぱなしだ。しかし目線は2人に注目している。


「ああ……どうにも力になってやれないのが、もどかしくてな」

「玲奈ちゃんまた足悪くなったのか?」

「いや、そうじゃないんだが……沈んでる時が多くてな。足の怪我が関係してるように思う」

「“思う”?」

「聞いても、訳をはっきりと言いたがらないんだ」


 牧の表情が終始硬いので、河田と諸星も真剣な顔つきになった。飲み物を豪快に飲み干した河田は、息を吐いた後誰ともなしに口を開いた。


「──俺は高1の時、身長は165cmしかなかったんだ」

「お、その話週バスで見たことあるぞ」

「ポジションも初めはガードだった。でも3年間で25cm伸びたから、ポジションもフォワード、センターとどんどん変わったんだ」

「お、おう」

「成長痛は痛えわ、ポジションに合わせて身体も作り続けなきゃならなかった──結果怪我無しだったな。山王の環境も大きかったと思うけどよ」

「……」

「土台ができて、やっとまともにプレー出来る。相手に当たり負けしないよう常に鍛えてないとレギュラーも怪しかったからな。今も状況は変わってねえけど」

「……そうだな」

「──玲奈ちゃん、バスケまたやり始めたんだろ?俺は玲奈ちゃんの心情、何となく分かる気がする」

「──諸星が?」


 河田の話が終わると、今度は諸星が語り出す。何だと、と言わんばかりに河田が諸星に食い気味に尋ねた。


「俺は怪我多い方じゃねえけど少なくもねえ。牧はどっちかって言ったら河田タイプだろ。身体ができてからペネトレイトが武器になったんじゃねえか?俺はガードだからゴール下で吹っ飛ばされたりして怪我もあったよ──森重とかにな」

「ああ──愛知県大会で担架で運ばれたな」

「言わなくていい!……あの時牧見に来てたな、そういえば」

「──森重か」

「──話戻すぞ! で、怪我が治るまで練習出来なかったりするだろ?その時はまだいいんだ、“身体が動かねえから”って諦められる。いざ怪我も治って練習に参加できる──ってなってからが厄介なんだよ。自分のイメージと身体の動きのアンバランスさがな」

「アンバランス?」

「少しの間でも身体を動かさなかっただけで今までのプレーが全然出来ない。でも自分の頭の中ではプレー出来てた頃のイメージが染みついてる。考えてる通りに身体を動かしてる──筈なのに、傍から見たら全然動けてない……意識と動きに違いがありすぎるんだ」

「……」

「周りは“休んでたから当然そうだろ”って思うけど、本人は苛立ちと軽くパニックだよな。休んでた時が長ければ長い分だけその感覚も大きい。玲奈ちゃんは1年以上もバスケ出来なかったんだから、尚更だよな」

「身体が動くようになった分……ってことか」


 河田が納得したように呟いたが、牧は口を閉ざしたままだった。
 諸星の言う通りだろう、と牧も思う。最近の玲奈の不安定さはきっと、バスケが絡んでる。


「──ありがとう。諸星、河田」


 牧の礼に思わず驚いた2人だったが、牧のどこか吹っ切れた表情を見て顔が綻ぶ。


「大会終わったらオフあるだろ。玲奈ちゃんと遊んで来いよ」

「……ああ」

「俺も空いてるから、いいぞ」

「何で河田なんだよ」


 諸星と河田のやり取りに笑いつつ、牧は玲奈に連絡してみよう、と思った。
 すぐメールを打ち、玲奈に送信した。





**





 バスケ部の練習後に牧は携帯を確認すると、玲奈からメールが届いていた。そのメールを開けると、牧の予想していなかった文章が目に飛び込んできた。



 『紳くんがよければ、一緒にバスケしたい』








2017.5.15





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