2016 Autumn(牧)
「牧くーん!!Trick or Treat!!」
「……何だそれは」
「お菓子をくれないとイタズラするぞー!ってお祭り、知らない?今日なんだけど」
「お菓子……ちょっと待ってろ」
ハロウィンの日、牧家を訪ねると玄関先でしばらくほったらかしにされた。お互いの家族にも紹介済、家に来ても何の問題もない関係なのに、イマイチ甘くならないこの雰囲気にはすでに慣れているけれど。
数分後私の前に戻ってきた牧くんに、せめてイベントの時くらいは恋人のようなことをしたいな〜と甘い甘い夢を見た私が、間違っていた。
「悪い、待たせて。上がっていいぞ」
「あ、じゃあお邪魔します」
「旨い和菓子があるんだが……それでいいか?」
「え」
通されたリビングのテーブルには、2人分の渋い和食器の上に大福餅がのせられていた。
「ちょうど良かった、ここの菓子旨いんだ。座って」
返す言葉が見つからず無言でソファに座ると、牧くんが「どうぞ」と私に和菓子を促す。
「いただきます」と手を合わせる牧くんを呆けて見つめていると、彼は私より先に大福を食べ始めた。
「――うん、やっぱここのは旨いな」
表情を緩めながらもぐもぐと頬を動かしている牧くんにつられて、私も大福を口に入れた。
「……うん。すごく美味しい」
「だろう?ーーあ、お茶入れてくる」
……私ここに何しに来たんだっけ。
牧くんが注いでくれた熱い緑茶を2人でふーふーと啜る。
……まあ、いっか。
「あ、牧くん唇に白い粉ついてるよ――ん、とれた」
(ハロウィン当日・牧)
2016.10.27