04 動 2
インターハイ女子決勝の後半戦が始まろうとしている。牧の周りにはいつのまにか海南メンバーが集合していた。
「玲奈さん、スタメンなんすか?」
清田が牧に聞く。もう名前で呼んでるのかと少し呆れながらも答えた。
「諸星の話だと前半は出てなかったようだぞ」
牧以外のメンバーも決勝戦が玲奈の高校だということに気付いていた。ただ前半戦を見ていないため他に何も言えなかった。
スコアボードを見ると桜ケ丘が20点差をつけてリードしている。状況的に玲奈の高校が勝利するのはかなり厳しい。
しばらくすると観客がざわつき始めた。両校が出てきて後半戦への準備を始めたのだ。周りの観客の話からすると、桜ケ丘は前半と同じメンバーのようだ。
コートに選手が入ってきて、観客のざわつきが増す。
「!玲奈さん後半出るんすね!」
清田は心なしか喜んでいる。ただ純粋に玲奈のプレイに興味があるからだ。兵藤兄弟の妹……どんなプレイをするのだろう。観客の興味も玲奈に注がれているようだった。
牧は玲奈の左足に目をやる。ふくらはぎから足首にテーピングが巻かれていた。大丈夫なのか……?やけに気になって仕方がなかった。
後半戦が始まった。最初の3分程は玲奈の動きにも緊張が見られたが、だんだんと玲奈の動きが変わり始める。
スピード、素早さ、クイックネス、ボールハンドリング――男子の中に入っても十分通用するレベルだ。
時間が経つほど動きのキレが良くなる。玲奈以外の選手は前半からプレイしているのもあり、玲奈との動きの違いは歴然だった。
それに呼応してチームメイトの動きも良くなっていく。最初は玲奈自ら点を取りにいっていたが、段々と味方にパスを回すことに専念する。玲奈はポイントガードだ。
桜ヶ丘は玲奈を集中的にマークしていたが、玲奈がパスを回し始めるとペースを乱され本来のプレイが出来なくなっていった。
「パス回しがめちゃくちゃうめぇ……」
清田が一人言のようにつぶやいた。牧も同じ事を思っていた。
久し振りに見る玲奈ちゃんのプレイは、俺から見ても凄い。特に「相手の裏をかく」という動作が本当に上手いのだ。相手の動きの先を2歩も3歩も読んでいる。
気が付くと後半残り1分、桜ヶ丘に同点にまで追いついた。会場も現王者の優勝ではなく、20点差を乗り越えて勝とうとしているチームを応援するムードで熱くなる。
玲奈にボールが渡るとぐっと今以上に腰を落とす。何人ものディフェンスをかわし相手ゴールに切り込んでいく。
「すっげえ低いドリブル……!!」
玲奈は鮮やかにシュートを決め、桜ヶ丘に逆転する。
桜ヶ丘ボールになり、玲奈達はシュートさせまいと懸命に守る。ゴール下に走り込み目線をチームメイトに送りながら最後の攻撃を守り抜いた。
沸き立つ大歓声。飛び上がって喜び合う優勝チームと静かに佇む準優勝チーム。
玲奈はコートに転がったボールを手に取り、暫く眺めた後ゆっくりと審判に手渡した。
玲奈の周りにチームメイトが集まる。そして監督も駆け寄り言葉を交わす。
その数秒後、玲奈はその場にしゃがみこむように崩れ落ちた。
清田が「あっ・・!」と叫ぶ。玲奈の周りに人だかりができたが、観戦していたのであろう玲奈の兄弟が横抱きに抱えて会場を後にした。
「玲奈さんどうしちゃったんすかね?」と狼狽える清田の横で、牧はその光景を黙ったまま見つめていた。
2011.10.18