2016 New Year (湘北)
※スラムダンク(湘北) 時代劇パロ「旦那!もうすぐこちらに攻め込んできます!監視が集団を捉えました!」
湘北亭の裏口から駆け込んできた男は息も荒く、屋敷内にいる一番の大男に声をかけた。湘北亭はこの辺り一帯で一番大きい料理屋だが腕が立つ者が多く、治安維持の役割もかってでていた。
「よし!今から作戦を考える!全員いるな?」
客は店番に任せ、奥の部屋に集合した湘北亭の猛者達は小さく輪を囲み頷き合う。まだ息も整っていない情報係の桑田は、すぐに報告を始めた。
「人数は50はいました……前々から噂は聞いていた陵南勢力でしょう。この地域も力ずくで侵攻するつもりのようです」
「……よし、では総力をあげて奴らを殲滅する!先陣は宮城!」
「承知!赤木のダンナ!」
「特攻役だ、頼むぞ!」
一番手を任された宮城は目を輝かせ頷いた。小柄だがその分俊敏で機動力は高い。
「宮城が突入したら流川!流川の後に三井と続け!」
赤木の言葉を聞いた途端、赤い髪で周りから気味悪がられていた桜木が勢いよく立ち上がった。
「ゴリ!俺は!?俺の出番は!?」
「うるさいわ桜木!最後まで話を聞け!」
大きな溜息をつきながら赤木は話を戻した。
「宮城が切り込んで相手が動揺したところを流川と三井で一気に叩く!」
「うす。ゴ……旦那」
「でもよ赤木、俺より流川が先ってどういう事だよ?俺の自慢の飛び道具があれば流川なんて……」
「お前の武器は信頼しているが……一番心配なのが体力だ。長期戦にならないとも限らない。ここは流川を先に行かせる」
「ぐっ……分かったよ!」
「ミッチーは体力ねーからなあ!!なーっはっはっは!」
「うるせー桜木!」
桜木が高笑いをした後、陵南の戦力、要注意人物が伝えられた。
一通り会議が終わった直後、部屋の襖が開いた。
「皆、そろそろ行った方がいいわ。すぐそこまで来てると報告があったから」
「アヤちゃん!!」
宮城の顔が赤くなった。美人で懐が大きく、ここの従業員を取り仕切っている彩子は赤木に目くばせをした。
「――よし、いくぞ!!」
「「「「おう!!!!」」」」
赤木、三井、宮城、流川、桜木以外の仲間も一緒に声を上げた。この町の危機回避の為に一致団結して闘いに挑む――全員の思いはひとつとなった。
「留守は私に任せて!生きて帰ってくるのよ!」
「アヤちゃんを残して死ねるか!」
「おう!行ってくるぜ!」
宮城、三井は意気揚々と答え、流川は言葉は発さずに頷いた。しかし1人だけ場違いな発言をしている赤頭が。
「ゴリ!俺は!どうすればいい!?」
自分の役割が分からない事に慌てた桜木は、お頭である赤木に詰め寄った。赤木はそんな桜木に目をやった後、静かに呟いた。
「――お前の攻撃には何も期待しとらん!!」
「え!?」
赤木は少なからずショックを受けた桜木の肩を勢いよく叩いた。
「だがお前の守備にはすこ――し期待している」
「……!!お、おっしゃ!!やってやる!!」
「よし行くぞぉ!!」
それぞれが武器を持ち、湘北亭を飛び出した。報告があった陵南の居場所まで全速力で進む。湘北亭の保安部隊は速い攻撃が持ち味だ。
「流川!お前がやられたら遠慮なく代わってやるからな!」
「うるせー。やられねー変わらねー」
「!いたぞ!」
開けた更地が見えてくると同時に陵南の部隊が姿を見せた。お互いがお互いの存在に気付いたらそれが、開戦の合図となる。
「一番の手練、仙道には気をつけろ!守りの要である魚住は俺が抑える!!」
「「「「おう!!!」」」」
赤木の指示で皆各所に散らばり、戦が始まった。
噂通り陵南は強く、中々撤退もしない。勝機が見えたと思ったところで、仙道が湘北亭の前に立ち塞がった。
「こらー!!この狐!仙道に負けんじゃねーぞ!!」
「うるせー…!」
桜木が唇を噛んだ。狐こと流川が仙道に歯が立たないとなると湘北亭の勝利が遠のく。三井は納得しないかもしれないが、流川の存在は重要なのだ。
「――桜木!お前も仙道を攻めろ!!」
赤木の突然の方針変更。仙道が予想以上だったこと、戦が長時間に渡ったため三井の身体が動かなくなったことが赤木の考えを変えさせた。
「木暮!!お前が来い!!」
赤木の腹心の相棒である木暮――この代打に異議を唱える者は誰もいなかった。
三井が木暮と交代しようとした時、三井が呟いた。
「お前にもあるだろ――飛び道具」 木暮は目を見開き、三井はニッと笑った。木暮は力強く頷くと、今まで隠していた大砲を運び込み、敵の懐を見定めた。
木暮はすぐに発射態勢に入る。それに気付いた湘北亭部隊は、木暮に賭け陵南勢を必死で押さえこみ、爆撃から避難する。
「木暮、今だ打て――!!!」
赤木の大声が響き渡った時、木暮の銃が大きな音を立てて発射した。その場にいる全員がその軌道を見つめると、陵南戦力に大打撃を与える箇所に命中した。
「や…った、当たったあ――!!」
木暮はその場で飛び跳ね歓喜した。湘北亭の仲間全員が木暮に駆け寄る。
湘北亭の勝利が確定した瞬間だった。
手勢を欠いた陵南は、これ以上の対戦は無理だと退却した。それを見届けると湘北亭の皆で喜びを分かち合った。
――だが三井は少し落ち込んでいた。体力が持たず、最後まで前線にいられなかったことに。
三井は一時期やけになって、湘北亭から離れ博徒となって浮浪していた。その事を思い出し、三井は1人涙ぐんだ。
「俺は何故、あんな無駄な時間を……」
更生する際、宮城に飛び蹴りされた時に折れた前歯の隙間がスースーと外気を取り込み、やたらと身にしみた。
2016.1.1