2015 Summer (湘北)


 ある日の放課後の湘北バスケットボール部部室。IHを終え選抜にむけて早々と練習に燃えている頃、皆思い思いに部活開始前の時間を過ごしていた。

 雑誌をパラパラとめくっていた宮城が、ふと隣にいた男に声を掛ける。


「…三井サン、この中でどの子がタイプっすか?」

「あ?」


 宮城が読んでいた雑誌を三井の方に寄せる。開かれていたページには水着姿の女の子が10人、それぞれ違ったポーズをきめて写っていた。

 「この雑誌でこのメンツからグランプリを決めるらしいんすよ」と宮城は付け加えた。三井は雑誌を両手に持ち、真正面からまじまじと女の子達を吟味する。


「――俺はこの子、7番」

「…三井さんってあんま意外性ないんすね、男が選ぶ典型的なタイプじゃないっすか」

「どういう意味だよそれ!?」

「一番胸がデカイ子じゃないですか」

「……」


 三井は沈黙した。そんな事を意識していたつもりはなかったが、宮城に指摘されて否定もできない。確かに三井は女の胸は大きい方がいいと思っていた。


「――胸はデカイ方がいいだろが!…彩子だってデカイだろ」

「彩チャンをそんな目で見ないで下さいよ!!いくら三井さんでも許さねえぞ!」


 宮城は自分の愛しの人、彩子に話が及ぶとなれば黙っていない。ギャーギャーと言い争いになっていると、部室のドアがノックされる音がした。


『リョータいる?部室の救急箱に補充頼まれてた物、持って来たわよ』

「ア、アヤちゃん!!」


 「三井さん、それ片付けて!」と現部長の宮城は指示を発してからドアを開けた。三井が陰でほくそ笑んでるのも知らずに。


「すぐ終わるから入ってもいい?」

「ど、どーぞ!」

「私もお邪魔します…」


 部室に入って来たのは彩子と、IH後からマネージャーになった赤木の妹、晴子だった。

 彩子は晴子に補充物の説明をしながら救急箱の中身を整理していく。時間もさほどかからず終えたところで、三井は彩子に声をかけた。


「彩子、お前はこの中でどの子が優勝すると思う?」

「…はい?」


 三井は自分が宮城にされた時のように、彩子に雑誌を開いて見せた。それを見た宮城は「あぁ!?」と動揺した。

「…うーん。女の好みと男の好みって違いますよねー…」

「俺はこいつがいいと思うんだけどよ。宮城、お前はどの子だっけ?」

「み、三井さん!!」


 三井は宮城にだけ分かるようにニヤー、と笑みを浮かべている。彩子は宮城に目を向けて返答を待っており、それを見た宮城は冷や汗を流して慌てる。


「いや、俺は誰も選んでない!だって俺は彩チャンひとすじ…」
「ちゅーっす!!」


 宮城の言葉と同時に部室のドアが開かれ、2人の男が顔を出した。


「皆の衆何をやってるんだ!?リハビリ王桜木は部活前のウォーミングアップはバッチリだぞ!」

「今日も元気ね桜木花道!」

「きゃっ…流川くん!お疲れさま!」

「うっす」


 部活前だというのに全身に汗をかいた桜木と流川が部室に入る。替えのTシャツとタオルを取りに来たようで、各々自分のロッカーに向かうと着替え始めた。それを見た晴子は両手で顔を隠す。指と指の間から少しばかり流川を覗いていたけれども。


 桜木と流川の登場で宮城は話の矛先を自分からそらせることが出来ると思い、早々に着替え終わった流川を呼んだ。


「俺よりも流川、お前はどの子がいい」

「…何すか」

「雑誌のグラビアコンテストだよ。流川はどの子が優勝すると思う?」


 雑誌を覗き込んだ流川は、キツネ目で顎に手をやり数秒考え込んだ後、ページに指を近づけた。


「俺はこの」
「イヤーっ!!流川くんからそんなの聞きたくないわーっ!!」

「ハ、ハルコさん!!?」


 この展開に耐えかねた晴子は顔を真っ赤にして流川の言葉を遮り叫ぶと、手で顔を覆ったまま部室を走って出て行った。それを見た桜木が慌てて後を追う。

 その光景を見た彩子は軽く溜息をつくと、「じゃー私も出てくわ」と部室を出た。


 嵐が過ぎ去った部室はいまだに雑誌を見ている三井と流川、「もしかして彩ちゃんに誤解されたかもしれない…」と勝手にショックを受けている宮城、その他見守るメンバーが残った。


「…へー、お前こういうのがタイプなのか、意外だな」

「…そーいう三井さんは」

「俺?この7番」

「…だと思った」

「ああ!?どういう意味だそりゃ!?」

「単に胸がデカイ」

「うるせーんだよ流川!」


 三井が流川に詰め寄るのを見て、安田は「赤木先輩がいたらこんな話部室で出来なかったよな…」と苦笑した。宮城のフォローは特に何もせずに。








2015.7.6



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