2012 summer(牧)
花火大会の夕方、私は彼と駅前で待ち合わせていた。こんな時じゃないと着れない浴衣を着て。履き慣れない下駄に遅れないようにと早めに家を出たら、彼はまだ待ち合わせ場所に来ていなかった。ほっと胸を撫で下ろす。
流石に花火大会とあって駅も混雑していて人が多い。私は浴衣に合わせたバックから鏡を取りだし、変なとこはないかチェックした。
髪もオッケー、顔も大丈夫。着崩れてない…ね!
周りを見渡すと浴衣姿の女の子が結構いる。みんな可愛い。
き、緊張してきた…。
私、変じゃないかな?いや、でも浴衣マジックって言うくらいだから、普段あんまり冴えない私でもいつもよりはマシな筈!せめて2割増、いや3割でお願いします!
早く着きすぎた私が悪いんだけど、まだかなあ…
待ち合わせ時間にもうすぐなろうとしている時、見慣れた顔が私の方に近付いてきた。
私の顔は真っ赤になる。
「ま……牧くん!?」
私の彼が来てくれたのはいいものの、見たこともない格好に目が釘付けになる。
「牧くんも浴衣……着たの?」
「ああ……母親に無理矢理着せられた。……変か?」
私は顔をぶんぶんと横に振る。
「ううん!!全然変じゃない!!むしろ…」
「むしろ?」
「……か、カッコいい……」
私は牧くんの顔が見れなくて下を向いた。
だ、だって、だって…!!反則だよ、こんなの〜!!
周りの女の子も牧くんに注目してる。女の子は浴衣着てる人は多いけど男の人は少数だ。その上、焼けた肌に、合わせの胸元に…とりあえず何もかもヤバい!!
「……可愛いな」
「え?」
「すごく可愛い。浴衣も似合ってる」
顔を上げると、牧くんが顔を赤らめていた。色黒でも、赤いと分かった。
せっかく心を落ち着けようと思ったのに、また顔から火が出る事言わないでー!!
「あ……ありがとう。嬉しい」
今できる精一杯の笑顔でそう言うと、牧くんもニコと微笑んでくれた。
「じゃあ、行くか」
そう言った牧くんは、私の手を握った。
「う、うん」
カッコいい牧くんに「可愛い」なんて言われて、私死んでもいい。…死ねってことですか?
花火大会会場に着くと、今か今かと開始を待つ。待ってる間もちっとも退屈じゃない。だって、隣に牧くんがいるから。
しばらくして大会開始の合図があると、花火が空に舞い始める。ドーンという音と共に、大きい大輪の花が夜空に咲いた。
花火を見ると、自分がすごくちっぽけに思える。大きなスケールのものを見ているからだろうか?手を伸ばしても届かない、高い高い空に大きな花火が上がっているから?
自分がとても、小さく感じる。
握っていた牧くんの手を思わずギュッと握る。牧くんも、私の手を握り返してくれた。
私は、ひとりじゃないよね。
こんなに好きな人の隣で、綺麗な花火を見れるなんて。
とてもとても、幸せだ。