不意を突かれる


「おー、三井飲んでるぅ〜!?チビチビ飲んでんじゃないよー!!」


 大学バスケ部の大会が終了し、お疲れ様の意味を込めた飲み会が行われている。体育会系の飲み会だけにアルコールの消費も早い。厳しい練習からの解放感からか、各々がぐびぐびと酒を飲んでいた。

 マネージャーの私も例にもれず、その1人。

 ビール片手に三井にお酌をしようとした私を、三井は怪訝な顔をして見上げる。


「……玲奈さんペース早くねえか?顔真っ赤だぜ、相当酔ってんじゃねーかよ」

「あんたも私も二十歳超えてんだから問題無いでしょーに!固いこと言ってないで飲もーよ、ほら!!」


 私は空いていた三井の隣に腰をおろした。


「いや、そういう事が言いたいんじゃねーんだよな……」

「?」


 三井は4年生である私の1つ後輩。私は冬が過ぎれば卒業だ。
 空になったグラスにビールを注ぐと、三井に差し出す。


「先輩が注いだ酒が飲めないって言うの?いいからグビっといけ!!グビっと!!」

「無茶苦茶タチが悪いー……。飲みゃいーんだろ」


 三井は一気にビールを飲み干した。


「おーいいねぇ三井!!うちのエースシューター!私が卒業してもチームを引っ張って行けよ!」


 三井の一気飲みを見て上機嫌になった私は、もはや女とは思えない飲んべえ口調で喋る。体育会系の部活に4年間も骨を埋めてたら、女なんかいつの間にか捨て去っていた。悲しいが。

 私も三井に負けじと、手酌したビールを一気に飲み干す。


「玲奈さん、もうこの位で止めとけよ」


 溜息を吐いた三井は私からビール瓶を取り上げた。


「何よー三井のお子ちゃま!お姉さんはまだまだ飲めますー大丈夫だから返しなさいー」

「フラフラだろーが」

「うっさいなー私は大丈夫だって言ってんでしょー」


 私は手を伸ばして、三井からビール瓶を取り返そうとする。しかし思ったよりも身体が動かず、三井の身体に寄り掛かる体勢になってしまった。


「返せー」

「ばっ……近えーよ!!」


 三井の顔を見るとさっきより赤くなっているように感じた。私はニヤーと顔を緩ませ口の端を上げる。


「なーに赤くなってんの?もしかして私に女を感じたー?」

「!!な、何言ってんだよ!変な事言ってんじゃねえ!」

「あっはっは!おっかしー。あんたが私の事何とも思ってない事くらい分かってるからー」


 慌てる三井が面白くて、ケラケラ笑いながら三井から取り返したビールを飲む。

 けれど三井は黙ったまま、難しい顔をしていた。


「三井?」

「……じゃあ俺の女になれ、って言ったらなってくれんのかよ」

「へぇ!?」


 酔いも手伝って声が裏返った。三井を見ると、真面目な顔で私を見つめていた。


「…………」


 しばし、お互い沈黙。


 少しして、三井が深い溜息を吐いた。


「……いや、どうせ今言ったところで酔いが醒めたら忘れてるだろーしな。今のナシ、聞かなかったことにしてくれ」


 この言葉で、三井が冗談で言ったんじゃなく本気なんだ、という事に気付いてしまった。


「……なーに三井、あんたらしくない事言ってぇ!あ、私に介抱してもらいたいのー?」

「うるせえ、この酔っ払い女!!」


 怒った三井は立ち上がって、席を移動した。私は座ったまま三井を指差してアハハと笑う。

 三井がいなくなった後、私はそのままビールを口に含んだ。酔っ払ってはいるけど意識はちゃんとしている。急に心臓がバクバクし始めたのは、アルコールの所為だけじゃないって事も分かってる。


 ただこの場は、そういう事にしておかないと私の身がもちそうになかった。





2012.12.27

あとがき

 三井か南で、お酒に酔ってしまって……というシチュのリクエストを頂きまして、書いてみました。関西弁が書けそうになかったので、三井にしました。

 冒頭のくだりはすぐ浮かんだのですが、それからどう展開させていくか……で結構悩みました。でも納得できるものが書けたと思います!
 展開的に藤真とカブるかな……と思ったのですが、その後がキャラが変わるとやっぱ違いますね。藤真はビシッと決めましたが、三井はちょっと惜しかった、といったところでしょうか。

 リクエストありがとうございました!!



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