子供なのは誰だ?
今日は久し振りに紳一が家にいる。今までずっと仕事で忙しく帰宅も深夜だった。休日も返上で会社に行っては仕事をしていた。だが、やっと一区切りついたようで、土曜日のお昼前に自宅で紳一を見るのなんて何ヶ月ぶりだろうか、と私は忙しくなり始めた時期を思い出そうと頭を巡らせた。
「――玲奈」
4歳の息子と2歳の娘にベタベタひっつかれながら、紳一は私を呼んだ。
「ん、何?紳一」
「今日はひとりでゆっくりしてていいぞ。俺が子供連れてどこか遊びに行ってくるから、玲奈はしたいことして、羽根伸ばせ」
「!!でも、紳一もずっと仕事で忙しかったじゃない。紳一の方が疲れてるでしょ?私の事はいいから――」
「昨日は長く眠れたから、いいんだよ。四六時中子どもと一緒だと息も詰まるだろ?最近どこにも遊びにも行けてないだろ」
「それは紳一も一緒でしょ?紳一こそ好きな事してリフレッシュした方が――」
すると紳一の足に抱きついていた子供達が一斉に声を上げた。
「「パパとあそびたい――!!」」
紳一は私に、な?と目配せする。
「……でも、1人で子供2人は大変だって」
「なら玲奈の大変さも分かって好都合だな。じゃ、出掛けてくる」
紳一は大喜びの子供達と玄関に向かうと、「帰る時は連絡する」と言い残してさっさと出て行ってしまった。
私はポツンとひとり取り残され、はあーと溜息をついた。
紳一は父親として、夫としてすごく出来がいい。子供の面倒はちゃんと見るし、私の事も考えてくれる。ママ友達と話してても「うちの旦那は休日でも自分のしたい事ばっかり」とか「子供なんて見てくれやしない」とか愚痴もいっぱい聞くのに、紳一に対してはそんな感情湧いたことも無い。
確かに子供と離れてリラックスできるのは嬉しい。子育ては子供を育てているようで、親の忍耐力と精神力を試されているような気がしてならない。少しでも其れから解放されるのは願ったり叶ったりなのだけれど……。
子供達がパパと触れ合うのが久し振りという事は、私にとっても同じ事なのだ。ここ数ヶ月は、朝の出勤前に事務的な会話を交わすだけ。夜は起きてなくていいと言われていたので、子供と眠る毎日。
少しだけ子供と離れてゆっくりしたい。
――でも紳一とも一緒にいたい。
凄く我儘だと分かっているから言えない。
私はあーとかうーとか言いながら、このモヤモヤを払拭するため取り敢えず掃除をしてしまおうと動き始めた。
家事を終えてから1人で買い物でもしようと街に出た。
自分用の服も見て可愛いな、と思うけど買うまでに至らない。結局買ってしまうのは子供達や紳一の服。離れててもやっぱり気になってしまうのだ。
でも久し振りに1人で行動して解放感に包まれた。今日の晩御飯は紳一と子供達の好きなものにしよう。
そう思った矢先、携帯が鳴った。紳一から「今から帰る」とのメールだった。
顔が緩むのが自分でも分かった。私の足どりは自然と早くなった。
家に帰ると紳一達は先に帰ってきていた。リビングに入ると、紳一と子供達がおかえりーと笑顔を向けてくれる。
「リフレッシュできたか?」
「うん。ありがとう。紳一は大変だったでしょう?」
「あー、まあな。でも玲奈は毎日これだもんな。頭が下がるよ、本当に」
「あはは。はい、これお土産」
私は紳一と子供達に買った洋服を渡した。
「――自分のは買わなかったのか?」
「うん、見るには見たんだけどね。結局皆の買っちゃった。疲れただろうから、今日は早めに晩御飯にしようね」
子供達はやったー、と両手を上げ喜んだ。紳一はお風呂の用意をするため浴室に向かった。
今日は早めのお風呂に早めの晩御飯。いつも1人であくせく奔走していたのに、紳一が手伝ってくれてその負担がかなり減る。精神的にも肉体的にも。
子供達は昼間に紳一と遊んだのが効いたのか、いつもより早く眠りについた。
私は静かに寝室のドアを閉めリビングへ向かう。紳一がビール片手にソファに座ってくつろいでいた。
「――寝たのか?」
「うん、もうぐっすり。ホントに楽しかったんだろうね、パパと遊んだのが」
私は紳一の隣に腰を下ろした。
「紳一、今日はありがとう。疲れたでしょ?紳一も早く休んでいいよ?」
私の言葉を聞いた後、紳一はビール缶を机に置いて私を見た。
「子供達とは遊んだけど、まだ玲奈とは遊んでないだろ」
「え?もう夜だし、どういう――」
言い終わる前に、紳一がぐいっと私の腕を引っ張った。紳一の胸に身体を預ける体勢になる。
「……2人でしか出来ない遊びがあるだろ」
その言葉を聞いた途端、私の顔は一気に赤くなる。
「…………エロじい」
「その言われ方は心外だな。夜もずっと玲奈をあいつらに取られてたんだから、ここ数ヶ月」
子供みたいにムッとした顔をして言う紳一が何だか可笑しくて笑ってしまった。
「……実はね、今日紳一が子供達と出掛けた時、嬉しい反面寂しかったんだ。紳一を取られちゃったみたいで。同じ事考えてたんだ、私達」
くすくす笑いが止まらない私に優しい瞳を向けた紳一は、私の唇にキスを落とす。
「俺もまだまだガキだってことかな」
「それは私だって同じだよ……。けど、……疲れてない?」
「疲れてないことはないけどな。それとこれとは別」
私の体力が持つか危惧しながら、私は紳一にされるがままとなった。
(1000HIT記念Request:牧さんとヒロインと子ども2人のとある休日)
2012.3.3